別府ひき逃げ殺人事件 八田與一容疑者逃走3年「神隠し」の謎

大分県別府市で大学生が車にはねられ死亡した凄惨な「別府ひき逃げ殺人事件」から、3年という月日が流れました。この事件では、重要指名手配犯である八田與一容疑者が別府の街から忽然と姿を消しており、その「神隠し」にはいまだ多くの解明されていない謎が存在します。本記事では、刑務所で多くの犯罪者の心理を分析してきた犯罪心理学者と、警察ミステリーを多く手がける作家という二人の専門家が、八田容疑者の不可解な行動や心理、そしてその逃走について語った内容を深掘りし、事件の核心に迫ります。

別府ひき逃げ殺人事件で重要指名手配されている八田與一容疑者の顔写真別府ひき逃げ殺人事件で重要指名手配されている八田與一容疑者の顔写真

未解決の核心:専門家が語る事件の特異性

今回の「別府ひき逃げ殺人事件」は、発生から3年が経過してもなお、重要指名手配されている八田與一容疑者が発見されておらず、数多くの謎に包まれています。通常、殺人事件において加害者と被害者の間に面識がある確率は90%を超えるとされる中で、今回のケースは「通常の殺人のセオリー」では説明しきれない特異性があると、犯罪心理学者の出口保行氏は指摘します。「今回のようなケースはほぼない。知り合いの中で殺人は起きる。通常の“殺人のセオリー”で、この事件を説明することは非常に難しい」と語り、事件の解明が進まない背景には、容疑者の特異な心理や行動パターンがあると示唆しています。

一方、別府の土地勘があり、事件現場にも近いという作家の矢月秀作氏は、自身のミステリー小説のタイトルを引き合いに出し、「神は悪魔を隠さない。必ず見つかる」と、八田容疑者の潜伏に終止符が打たれることを確信しています。現在の定説となっている「九州を出て本州をウロウロしている」という見方に対し、「意外と出ていないのではないか」と異論を唱え、地元の可能性も視野に入れているようです。

事件直前の「空白」と不可解な行動

事件当日、八田容疑者は16時9分ごろ、ショッピングモール内の店でコップを購入しています。その後、一度その場を離れ、約3時間半後の19時40分過ぎに、車で再びショッピングモールに戻ってきています。この際、車内で大音量で音楽を流していたとされており、そしてそのわずか2分後に事件は発生しました。

なぜ八田容疑者は事件直前に大音量で音楽を流していたのでしょうか。出口氏は、これは「大音量で音楽を流し、人の注意を引きつけ、相手に因縁を付けていくきっかけを作る」ための行動であり、本人が積極的に衝突の機会を探していたことの現れだと分析します。このような行動は、「被害感や疎外感が強いタイプ」に見られる傾向であり、「専守防衛」と称し、自分から攻撃を仕掛けて相手を力ずくで屈服させることで、自身の卑屈な気持ちを晴らそうとする心理が働いていると推測します。出口氏によると、八田容疑者は「多種方向犯」と呼ばれるタイプに近く、「自分に降りかかってくる問題を、全て犯罪で解決しようとするタイプ」であり、社会への不適応感や他者からの攻撃に対する怯えを常に抱えていた可能性が高いと述べました。その上で、事件のきっかけは行きずりの相手を狙ったものかもしれないが、その後の怒りの爆発はまれなケースだと評価しています。

また、コップ購入からショッピングモールへの再訪までの「空白の3時間半」に、八田容疑者がどこで何をしていたのかも謎の一つです。矢月氏は、この時間に「マッチングアプリで引っかけていた女の子と待ち合わせていたのではないか」という説を提示します。もし待ち合わせた女性が現れず、それによってイライラしていたとすれば、その感情が事件につながった可能性も考えられます。八田容疑者が事件前にマッチングアプリを使い、複数の女性と出会い、交際していたという事実は、この推測を裏付ける要素となり得ると述べました。彼の二面性のある性格が、こうした状況でスイッチを切り替えたのではないか、と分析しています。

現場に残された遺留品の謎

八田容疑者が事件後に車内に残した遺留品、特にサンダルとスニーカーにも謎が存在します。彼は裸足で逃走したとされていますが、コップ購入時はサンダルを履いていました。しかし、約3時間半後にショッピングモールに戻ってきた際にはスニーカーに履き替えていました。これは、空白の時間にどこかに出かけた際に履き替えたと考えられます。

ところが、警察が事件直後に八田容疑者の車を調べた際、スニーカーは助手席に2足置かれており、サンダルは運転席の足元、さらに別の1足がドアの外にあったとされています。つまり、被害者を追いかけ殺害した際には、再びサンダルを履いていたことになります。なぜ、一度スニーカーに履き替えたにも関わらず、追いかける直前にわざわざサンダルに履き替えたのでしょうか。

出口氏は、この履物の履き替えは、八田容疑者にとって「自分の背中を押すために必要だった」行為であり、気持ちを切り替えるための「ひとつの準備段階」だったと推測します。一時的に「間」を置くことで怒りをさらに蓄積し、一気に爆発させた結果が今回の事件につながったと見ており、単なる衝動的な行動ではないと分析しています。矢月氏は、運転時はサンダルを履き慣れていたため、自然な行動だったと考える一方で、被害者が謝罪したことで一度は怒りが収まったが、履き替えているうちに怒りが再燃し、過去に留置場で聞いた「車でひいたら事故扱いだ」という話を思い出し、脅しのつもりで犯行に及んだ可能性を指摘します。この留置場での話は、八田容疑者が以前、同じ留置場にいた人物から「車でひいても暴行や傷害にはなるが、殺人にはならない」と聞き、感心していたという証言に基づいています。

他の遺留品としては、国道10号を渡った先のヨットハーバーで発見された、八田容疑者が着用していたとされる黒いTシャツがあります。このTシャツが草むらなどではなく、かなり目立つ場所に脱ぎ捨てられていたことも謎です。事件当日は真夏日(最高34.9度)であり、彼は大量の汗をかいていたはずです。Tシャツが発見されたとみられる20時頃は、事件現場に警察や救急車両が到着し始めた時間であり、別府市内ではまだ事件発生や八田容疑者の存在が広く知られていない時間帯でした。

出口氏は、このTシャツの発見場所から「海に飛び込むことも十分考えられる」と推測します。海に飛び込めば足取りを一度消すことができ、その準備のために脱いだ可能性があると見ています。そして現在、八田容疑者は見つかる危険性を避けながら、人間関係が希薄な「大都会に紛れ込んでいる」可能性が高く、生活に困窮して再び犯罪を繰り返しているのではないか、と予想しています。矢月氏もまた、「海に飛び込んで逃げようとした」が、夜の海に飛び込む勇気がなく「やっぱりやめた」となったのではないかと考えています。さらに、彼は肌荒れなどを気にするタイプだったため、Tシャツの下にインナーを着ていた可能性があり、インナー姿であれば海沿いの公園を歩いていても不審に思われにくいと指摘しています。

容疑者の逃走ルートと潜伏先の推測

上半身裸で裸足、財布もスマホも持たずにヨットハーバーから逃走したとされる八田容疑者が、どのようにして逃げ、現在どこに潜伏しているのかも大きな謎です。警察によれば、事件直後に公共交通機関を利用した形跡は確認されていません。ヨットハーバーから八田容疑者の自宅があった町までは約13キロの距離があります。ヨットハーバーから海沿いのホテルの裏道や公園を通れば、人目に触れずに逃走することは地理的に可能です。また、ヨットハーバーから約3.5キロの場所には別府国際観光港があり、四国行きのフェリーが出ていますが、警察はその利用を確認していません。

出口氏は、かつて留置場で聞いた「車でひき殺せばどうなる」という話を実際に実行してみようとするような「この手のタイプはそうそういるものではない」と述べた上で、逃走先としては「大都会に紛れ込む」可能性を最も高く見ています。隣に誰が住んでいるかもわからない、人間関係が極めて希薄な都会の環境は、逃走犯にとって最も都合が良い場所だと分析しています。

矢月氏は、別府国際観光港からのフェリー利用の可能性を完全に排除していません。「荷台のチェックはしない。乗用車だとトランクのチェックもしないし、そこに滑り込んでしまえば、九州を脱出するには一番早い」と指摘します。例えば四国に渡れば、お遍路さんに紛れていれば、裸足であってもさほど不審に思われないかもしれない、とユニークな視点を提供しています。さらに、マッチングアプリを利用するような人物は「スマホを2、3台持っている」可能性があり、車内に残されていた携帯以外に別の携帯を持っている可能性も考慮すべきだと述べました。八田容疑者は自ら命を絶つようなタイプではないとの見解を示し、定説となっている「九州を出て本州をウロウロしている」という説に対し、やはり「意外と九州を出てないのではないか」と改めて自身の考えを強調しました。

出口氏は、八田容疑者の逃走生活について、「お金は必ず盗んでいると思う」と推測します。このような凶悪事件を起こした人間は、「生き延びるということが、すごく自分の中で快感に変わっていく」タイプであり、捕まらずに世間をあざむいて生きていること自体に快感を持っている可能性があると分析しています。そのため、働いて生活の糧を得るよりも、「とにかく潜伏をどうするのかに腐心しているだろう」と、彼の逃走生活が続いている現状を予想しました。

発生から3年が経過してもなお、多くの謎を残し、八田與一容疑者の行方が分かっていない別府ひき逃げ殺人事件。犯人の早期逮捕、そして事件の全容解明のためには、市民からの情報提供が極めて重要です。どんな些細な情報でも構いませんので、心当たりのある方は指定の窓口まで連絡をお願いします。

情報提供は別府警察署(0977-21-2131)まで。X(旧Twitter)の番組公式アカウント(@News_ABEMA)のダイレクトメッセージでも情報を募集しています。

[出典] ABEMA TIMES / Yahoo!ニュース (記事執筆時点)