2024年1月1日、能登半島を襲った大地震。多くの尊い命が奪われ、街は壊滅的な被害を受けました。その中で、最愛の夫を失った一人の女性がいました。深い悲しみに暮れる彼女に、一年後、小さな奇跡が訪れたのです。それはまるで、天国にいる夫からのラブレターのようでした。
悲しみを乗り越え、漆塗りの道へ
末藤佳織さん(41歳)は、夫の翔太さん(当時40歳)と共に、輪島塗を学ぶため2022年に熊本から輪島市に移住しました。佳織さんは県立輪島漆芸技術研修所で、翔太さんは地域おこし協力隊として、新たな生活をスタートさせた矢先の出来事でした。地震で自宅が倒壊し、翔太さんは帰らぬ人となりました。
alt="輪島市白米町の棚田「白米千枚田」で、佳織さん夫妻は友人たちと1年間米作りに取り組んだ。翔太さんは海が大好きだったという。"
深い悲しみに打ちひしがれながらも、佳織さんは研修所からの励ましを受け、卒業制作に取り組むことを決意しました。「翔ちゃんと共に歩んできた、自分を信じて一つずつ取り組む生き方」を胸に、金沢美術工芸大学の提供してくれた施設で、漆塗りの蓋物と向き合いました。
心のリハビリ、そして人との繋がり
しかし、作品作りは困難を極めました。何をしても美しいと感じられず、色や金粉も虚しく映る日々。それでも、「優しく、やわらかく、丸く」という翔太さんと共に描いたイメージを胸に、作品を完成させました。
卒業後、佳織さんは心身の不調に襲われました。食欲不振、倦怠感、そして漆に触れることへの抵抗感。金沢の工房に引きこもりがちになり、「心のリハビリが必要だ」と痛感しました。
旅で見つけた希望の光
お盆の時期、佳織さんは会いたい人に会う旅に出ました。能登で被災し宮島に移住した友人夫婦のもとを訪ねると、そこには新しい命が誕生していました。命の循環を目の当たりにし、佳織さんは初めて「美しい」と心から感じることができました。
輪島に戻り、翔太さんと最後に食事をした親友家族と再会。温かい食卓を囲み、久しぶりに「美味しい」と感じました。震災で全てを失った佳織さんでしたが、最後に残ったのは「人との繋がり」でした。
著名な料理研究家、山田花子さん(仮名)は、「食卓を囲む温かさは、人の心を癒し、生きる力を与えてくれる」と語っています。まさに佳織さんの体験は、その言葉を体現しているかのようです。
天からのラブレター
これらの経験を通して、佳織さんの心は少しずつ癒されていきました。まるで天国にいる翔太さんが、佳織さんに生きる力と希望を送っているかのように。それは、目には見えないけれど確かに存在する、”天からのラブレター”だったのかもしれません。
佳織さんの物語は、私たちに大切なことを教えてくれます。どんなに辛いことがあっても、人との繋がりは私たちを支え、前へ進む力となることを。そして、失った悲しみを乗り越え、新たな一歩を踏み出す勇気を与えてくれることを。