日本の火葬場では、近年、外国人の方の火葬に立ち会う機会が増えているといいます。言葉や文化の違いから、戸惑うことも多い現場で、心温まる交流があったそうです。今回は、元火葬場職員の下駄華緒さんの著書『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(漫画:蓮古田二郎)第4巻から、中国のご遺族とのエピソードをご紹介します。
言葉の壁を越えて
ある日、下駄さんの働く火葬場に、中国から来られたご遺族が訪れました。日本語が通じず、通訳もいない状況に、下駄さんは困惑します。しかし、火葬は予定通りに進めなければなりません。そこで下駄さんは、身振り手振りでコミュニケーションを取りながら、ご遺族に「日本で火葬して良かった」と思ってもらえるよう、精一杯のおもてなしをしようと心に誓いました。
中国のご遺族と火葬場職員
お骨上げの直後、驚くべきことが起こりました。ご遺族は、お骨を一目見て、喜びを爆発させたのです。故人は若い女性で、頭蓋骨がきれいに残っていたことがその理由でした。
赤い布袋と頭蓋骨
赤い布袋にお骨を納める
中国では、故人の頭蓋骨を大切に保管する風習がある地域もあるそうです。ご遺族は、骨壺ではなく、赤い大きな布袋を取り出し、頭蓋骨を壊さずに持ち帰りたいという意思表示をされました。
思いやりが生んだ奇跡
火傷しないように皮手袋を使用
お骨はまだ熱く、火傷の危険性がありました。そこで下駄さんは、焼き場で使う皮手袋を使って、ご遺族が大切なお顔の骨を布袋に納めるのを手伝いました。しかし、布袋が大きすぎたため、底が床についてしまい、残念ながら頭蓋骨は崩れてしまいました。
結果的に、ご遺族の希望通りにはいきませんでしたが、彼らは笑顔で手を振りながら帰っていきました。言葉は通じなくても、下駄さんの故人やご遺族に対する真摯な思いやりは、しっかりと伝わっていたのです。
心は国境を越える
この経験を通して、下駄さんは「文化や言語が違っても、誠意をもって接すれば心は通じ合える」ということを実感したそうです。グローバル化が進む現代社会において、葬儀の現場でも異文化理解の重要性が高まっています。葬送文化研究家の桜井先生も、「多様な文化背景を持つ人々への配慮が、より良い葬送サービスにつながる」と指摘しています。
下駄さんの体験談は、私たちに大切なことを教えてくれます。それは、言葉の壁を越えて、人と人が心を通わせることの尊さです。そして、異なる文化への理解と尊重が、より良い社会を築く上で不可欠であるということです。