フランスでは、伝統的な左派リベラルが牽引してきたフェミニズム運動とは異なる、右派フェミニズムの潮流が生まれています。イスラム移民の流入やLGBT論争といった社会変化の中で、「真の女性の敵は誰か」を問い直す女性たちの声が大きくなっているのです。
移民問題と女性たちの安全
alt フランスの女性団体「ネメシス」のデモ行進の様子。プラカードを掲げ、声を上げている女性たちの姿が映っている。
2019年に発足した女性団体「ネメシス」は、不法移民の流入やイスラム主義に抗議活動を行っています。「私たちの文明を守れ」というスローガンを掲げ、各地でデモを展開しています。ギリシャ神話に登場する「神の怒り」を体現する女神に由来する団体名からも、彼女たちの強い意志が感じられます。
代表のアリス・コルディエ氏（27）は、「移民による犯罪の増加は、女性たちの安全を脅かしている。左派は『差別反対』の一点張りで、真摯な議論をタブー視している」と訴えます。彼女自身、故郷オルレアンで不法滞在者からセクハラを受けた経験が、活動の原動力となっています。また、トランスジェンダー問題にも積極的に発言し、子供の性転換には否定的な立場をとっています。
左派の女性活動家からは「極右」「フェミニズムではない」といった批判も浴び、テレビ番組での討論が白熱することも少なくありません。デモが乱闘騒ぎに発展するケースもあるなど、まさに「女性同士のバトル」が注目を集めています。ネメシスのX（旧Twitter）のフォロワー数は約9万人にものぼり、その影響力の大きさが伺えます。
右派フェミニズム勃興のきっかけ
alt アリス・コルディエ氏とネメシスのメンバー。真剣な表情でカメラを見つめている。
右派フェミニズムが注目を集めるようになったきっかけの一つは、2020年に起きたユーチューバー女性歌手ミラさん（当時16歳）の「事件」です。インターネット上で男性視聴者とトラブルになり、イスラム教を侮辱したとして殺害予告を受けたミラさんは、警察に保護される事態となりました。
ミラさんはメディアを通して、フランスの国是である政教分離と表現の自由を訴え、「なぜ私を守らないのか」と問いかけました。この出来事は、極右勢力だけでなく、一部の女性活動家からも支持を集めました。
しかし、多くの左派系女性団体は、国家アイデンティティーを掲げるミラさんに戸惑いを隠せず、「犯罪者を宗教や人種で区別すべきではない」という声もあがりました。少数派の人権擁護を重視する左派にとって、ミラさんの主張は受け入れ難いものだったのです。
ネメシス結成の直接的なきっかけは、2015年末にドイツ西部ケルンで起きた集団暴行事件です。約600人の女性が路上で襲われ、容疑者の多くが北アフリカや中東からの移民・難民だったことが判明しました。コルディエ氏らは「私たちはケルン世代」を自称し、本格的な活動をスタートさせたのです。
女性たちの新たな闘い
フランスにおける右派フェミニズムの台頭は、移民問題や文化摩擦といった複雑な社会問題を背景に、女性たちの安全と権利を守るための新たな闘いの始まりと言えるでしょう。彼女たちの声は、今後のフランス社会、ひいてはヨーロッパ社会の行方に大きな影響を与える可能性を秘めています。
