ロシアの影に怯えるバルト三国:エストニアとフィンランドの備え

旧ソ連の支配から独立を果たしたエストニアとフィンランド。ウクライナ侵攻以降、隣国ロシアの脅威を改めて強く意識し、国防への備えを着々と進めている。両国では国民の意識、そして国防への取り組み方にどのような変化が見られるのだろうか。

エストニア:過去の傷と未来への備え

ソ連時代の弾圧の記憶が今も生々しいエストニアでは、中高年層を中心に国防への意識が非常に高い。7万5000人以上が殺害、投獄、強制移住の被害に遭ったとされる歴史を持つこの国では、ロシアの脅威は決して他人事ではない。

歴史研究家のミーリス・マリプーさん(58)は、ソ連時代に曽祖父とおじを亡くした経験を持つ。軍の予備役でもある彼女は、「ロシアが再びエストニアを攻撃してきたら、必ず戦う。誰かに守ってもらうのではなく、自らの手で国を守る」と強い決意を語る。

エストニアの首都タリンで、犠牲になった曽祖父とおじの名前が刻まれた祈念碑の前に立つマリプーさんエストニアの首都タリンで、犠牲になった曽祖父とおじの名前が刻まれた祈念碑の前に立つマリプーさん

国際防衛安全保障センターのクリスティ・ライック副センター長は、「ロシアがウクライナで部分的な勝利を収めたとしても、エストニアを含む周辺諸国の安全保障への脅威は非常に高まる」と警告を発している。過去の苦い経験から、エストニアは国防の重要性を改めて認識し、万が一の事態に備えている。

フィンランド:若者たちの国防意識の高まり

人口550万人のフィンランドでは、ウクライナ侵攻をきっかけに、国防に貢献したいと考える若者が増加している。国防大学によると、2024年の士官候補生課程への志願者数は、2022年と比べて24%増の730人に達した。

ヘルシンキの国防大学で、士官候補生課程の志願者数の推移について説明するバイニオさんヘルシンキの国防大学で、士官候補生課程の志願者数の推移について説明するバイニオさん

2022年に徴兵を経験したエリアス・バイニオさん(22)は、「自分の国を守りたい」という思いから士官候補生課程で学んでいる。「ロシアのウクライナ侵攻は、授業で学んだロシアの戦術パターンと一致していた。だからこそ、対応する準備はできている」と自信を見せる。

シェルター:国民を守るための備え

フィンランドは、爆撃に備えて約5万カ所のシェルターを整備し、480万人を収容できる体制を整えている。一定規模以上の集合住宅にはシェルター設置が義務付けられており、首都ヘルシンキでは、公的シェルターを子ども向け施設やスポーツ施設として活用するなど、平時にも有効活用されている。国防意識の高まりとともに、国民の安全を守るためのインフラ整備も着実に進んでいる。

バルト海を挟んでロシアと対峙するエストニアとフィンランド。両国は、歴史的背景や国民性も踏まえながら、それぞれ独自のやり方で国防強化に取り組んでいる。ウクライナ侵攻は、ヨーロッパにおける安全保障の重要性を改めて浮き彫りにし、周辺国に大きな影響を与えている。