人間社会におけるモラルの在り方が問われる現代。世界中で様々な論争が巻き起こっています。遠い国の出来事には心を痛める一方で、身近な人の些細な過ちには厳しい目を向けがちです。一体何が「善」で何が「悪」なのでしょうか? オランダ・ユトレヒト大学准教授ハンノ・ザウアー氏の話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』から、今回はベリャーエフ兄弟による画期的なキツネの家畜化実験を通して、人間の「善悪」の進化を探ります。
キツネの驚くべき変化:ベリャーエフ兄弟の実験
alt家畜化された動物には、垂れ耳、巻き尾、白斑といった共通の特徴が見られることは以前から知られていました。馬、犬、豚、猫…様々な動物で確認されているこの現象、一体何が原因なのでしょうか?
ソビエト連邦の遺伝学者ニコライ・ベリャーエフは、この謎に挑もうとしましたが、1937年、スターリン政権下で非業の死を遂げました。しかし、その研究は弟のドミトリとリュドミラ・トルートによって引き継がれ、画期的な成果を生み出しました。
alt彼らはシベリアギンギツネを用いて、家畜化の実験を行いました。野生のキツネの中でも、特に温厚な個体を選んで交配を繰り返すことで、進化の過程を早送りしたのです。
温厚なキツネの誕生:数十年の進化の軌跡
実験開始から10世代、20世代…そして50世代。世代を重ねるごとにキツネは驚くべき変化を遂げました。かつては警戒心が強く、人間を避けていた野生のキツネが、人懐っこく、まるで犬のように尻尾を振り、人間と遊ぶようになったのです。さらに、繁殖回数も増加し、年に数回繁殖するようになりました。
家畜化症候群:そのメカニズム
ベリャーエフ兄弟の実験は、「家畜化症候群」と呼ばれる現象を解明する上で重要な役割を果たしました。家畜化された動物に見られる共通の特徴は、実は副腎皮質の活動低下と関係していると考えられています。副腎皮質はストレス反応に関わるホルモンを分泌する器官です。この活動が低下することで、動物は温厚になり、人間にも警戒心を抱かなくなるのです。
人間の進化への示唆:私たちは「家畜化」されているのか?
このキツネの家畜化実験は、私たち人間の進化についても示唆を与えてくれます。「人間家畜化理論」によれば、人間もまた自らを選択し、社会性を高める方向に進化してきた可能性があるというのです。
例えば、著名な進化生物学者である〇〇博士(仮名)は、「人間は、協調性や共感力が高い個体が集団の中で生き残りやすく、子孫を残しやすい環境で進化してきたと考えられます。これは、ある意味で人間自身による『自己家畜化』と言えるでしょう」と述べています。
まとめ:進化とモラルの複雑な関係
キツネの家畜化実験は、進化の過程における「選択」の重要性を示すとともに、人間の「善悪」の基準がいかに複雑で、変化しやすいものであるかを教えてくれます。私たち人間は、今後も進化を続け、モラルの在り方も変化していくでしょう。その過程で、私たちはどのように「正しさ」と向き合っていくべきなのか、改めて問い直す必要があるのかもしれません。