2024年の将棋界を語る上で欠かせないのは、藤井聡太竜王・名人の栄光と苦悩の物語でしょう。前人未到の八冠制覇という偉業を成し遂げ、まさに無敵と思われた藤井聡太氏。しかし、その頂点から一転、長期的な不調に陥り、そしてそこから見事な復活を遂げた彼の姿は、多くの将棋ファン、そしてそうでない人々の心をも掴みました。
八冠達成、そして訪れた不調
2023年10月、藤井氏は王座戦五番勝負で永瀬拓矢九段を破り、八冠を達成。現代将棋において、情報戦、AI研究の普及により、棋士間の力の差が縮まりつつある中で、全タイトルを独占するという偉業は、まさに「歴史的最強棋士」の誕生を意味していました。
藤井聡太棋聖(2024年7月) ©時事通信社
しかし、その栄光は長くは続きませんでした。2024年6月、叡王戦五番勝負で同学年の伊藤匠七段に敗北。初めての失冠を経験します。伊藤七段はAIを活用した序盤研究の深さで知られていますが、この対局では藤井氏も序盤でリードを奪う場面が見られました。終盤力の高さで知られる藤井氏であれば勝利は確実と思われた矢先、信じられないミスが続出し、逆転負けを喫してしまったのです。
練習パートナー永瀬九段の証言と不調の兆候
藤井氏の練習パートナーとして知られる永瀬九段は、「2月頃から藤井さんらしくないと思っていた」と証言しています。2月の朝日杯将棋オープン戦決勝で藤井氏に勝利し、自身初の全棋士参加棋戦優勝を果たした永瀬九段。しかし、喜びよりも「いつもの藤井さんではなかった」という違和感が強く残ったそうです。普段の対局では「脳が本当に疲れる」ほどの激しい攻防が繰り広げられるそうですが、この時の藤井氏にはそれが見られなかったとのこと。
将棋評論家の加藤一二三九段(仮名)も、「叡王戦の棋譜からは明らかに藤井氏の状態が万全ではなかったことが読み取れる」と指摘しています。終盤での不可解なミスは、精神的な疲労やプレッシャーが原因の一つと考えられるでしょう。
不調からの脱却、そして更なる高みへ
八冠から七冠へ。多くのファンが藤井氏の今後を心配する中、彼は再び立ち上がりました。その後のタイトル戦では、持ち前の終盤力と正確な読みを取り戻し、見事な勝利を収めています。
藤井聡太竜王・名人の2024年は、栄光と挫折、そして復活というドラマチックな一年となりました。不調を乗り越え、さらに進化を続ける彼の姿は、私たちに大きな勇気を与えてくれます。今後の活躍にますます期待が高まります。