2018年11月、宮崎県西臼杵郡高千穂町で発生した一家6人殺害事件は、日本社会に深い衝撃を与えました。この凄惨な事件は、犯人とされた人物が自ら命を絶ったことで、その核心的な動機が不明なまま幕を閉じ、未解明の謎として多くの人々の記憶に残っています。表面上は仲睦まじく見えた家族に何が起こり、なぜこのような悲劇が引き起こされたのか。本記事では、高千穂一家殺害事件の発生から終結までの経緯を詳細に追い、永遠に解き明かされない犯行動機の闇、そして事件が残した社会への問いに迫ります。
宮崎高千穂で起きた惨劇の始まり
2018年11月25日の夜、宮崎県高千穂町在住の松岡史晃さん(当時44歳)は、所属する消防団の忘年会から帰宅したばかりでした。この日はほとんど酒を飲んでいなかった彼のもとに、同町に住む知人、飯干昌大(当時42歳)から一本の電話がかかってきます。昌大は妻との喧嘩の仲裁を依頼。これまでも何度か仲裁に入った経験があった松岡さんは、快く引き受け、軽トラックで昌大宅へと向かいました。午後9時頃のことです。この夜の訪問が、後に日本中を震撼させる凄惨な一家殺害事件の幕開けとなることを、誰も知る由もありませんでした。
事件発覚と血の惨状:6人の犠牲者
翌11月26日朝、異変は昌大の勤務先である建設資源会社が察知しました。普段から真面目な彼が無断欠勤し、携帯電話に何度連絡しても応答がないため、妻の美紀子さん(当時41歳)にも連絡を取りましたが、同様に連絡がつきませんでした。不審に思った会社からの連絡を受け、昌大の弟が警察に通報。警察が飯干昌大の自宅に駆けつけると、家の敷地内には信じられない光景が広がっていました。凶器とみられる鉈が散乱し、血の海の中に6人の殺害遺体が転がっていたのです。
高千穂一家殺害事件の現場を捜査する警察官の様子、動機解明に向けた尽力
被害者は、昌大の妻・美紀子さん、父親・保生さん(当時72歳)、母親・実穂子さん(当時66歳)、長男・拓海さん(当時21歳)、長女・唯さん(当時7歳)、そして仲裁に訪れた松岡史晃さんの計6名でした。遺体の状況から、美紀子さんと唯さんは絞殺、他4名は銃で惨殺されたものとみられました。保生さんは頭部を切られ、その布団の上に拓海さんが倒れており、祖父を助けようとした可能性が指摘されています。特に母親の実穂子さんの遺体は屋外で発見され、激しい損傷と首の切断が確認され、犯人からの非常に強い殺意がうかがえました。松岡さんも頭部がほぼ切断された状態で発見されており、善意から事件に巻き込まれたと推測されます。現場に飯干昌大の姿だけはありませんでした。
動機なき幕引き:犯人の自殺
警察は飯干昌大が事件を引き起こし、逃走した可能性が高いとみて大規模な捜索を開始。現場から約2.5キロメートル離れた神都高千穂大橋の駐車場で、乗り捨てられた昌大の車が発見されます。捜査が橋の周辺に集中すると、その橋の下を流れる五ヶ瀬で彼の遺体が見つかりました。現場の状況から、昌大は高さ115メートルもの橋から川に転落したものと推定。後に、彼が橋の手すりを乗り越え飛び降りるところを目撃した人物が現れたことで、犯行後の自殺が確定しました。これにより、凄惨な高千穂一家殺害事件の実行犯が特定されたものの、飯干昌大が自ら命を絶ってしまったことで、なぜこのような悲劇を引き起こしたのかという最も重要な犯行動機は永遠に闇に包まれることとなりました。仲睦まじく見えていた家族に何が起こっていたのか、その深層は現在も未解明のまま、多くの謎を残しています。
残された問い:高千穂一家事件が問いかけるもの
宮崎県高千穂町で発生した一家6人殺害事件は、犯人が自ら命を絶ったことで、その動機が永遠に謎に包まれたままとなりました。この未解明の惨劇は、平穏な日常の裏に潜む人間の心の闇や、家族という最も身近な関係性の複雑さと脆さを浮き彫りにしています。事件の全容は明らかになってもなお残る「なぜ」という根源的な問いは、社会に深い教訓と警鐘を鳴らし続けています。高千穂一家殺害事件は、単なる過去の悲劇としてではなく、現代社会が抱える根深い問題を示唆する、未解決の課題として今もなお存在し続けているのです。
参考文献
- 『読んで震えろ!世界の未解決事件ミステリー』(鉄人社、2024年)より一部抜粋・構成。