チェジュ航空事故:ブラックボックスに記録なし、原因究明に暗雲

昨年末、務安空港で発生したチェジュ航空機の事故。当初鳥衝突(バードストライク)が原因とされていたこの事故、原因究明の鍵となるブラックボックスに肝心の情報が記録されておらず、調査は難航を極めている。一体何が起きたのか、そして今後の調査はどうなるのか、詳しく見ていこう。

ブラックボックスに記録なし、異例の事態

事故原因究明の最重要資料であるブラックボックス。しかし、今回回収されたブラックボックスには、事故発生約4分前の記録が残されていなかった。航空鉄道事故調査委員会によると、フライトレコーダー(FDR)とコックピットボイスレコーダー(CVR)両方に記録がないという異例の事態だ。FDRは飛行ルートや機器の作動状態を記録し、CVRは操縦室内の会話や交信内容、警告音などを記録する。これらのデータが失われたことで、事故当時の状況把握は非常に困難になっている。

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専門家たちは、機内の電力供給が完全に遮断されたことが原因ではないかと推測している。韓国航空大学のファン・ホウォン教授は、「ブラックボックスに記録がないのは極めて異例で、電源供給の問題が考えられる」と指摘。航空業界関係者も、「エンジンが1基停止しても電力は供給されるし、2基停止しても補助動力装置を起動すればFDRは作動するはず。今回の事故は本当に異例だ」と語る。

CVRには、非常時に備えた補助バッテリーで約10分間の録音が可能だが、これは2018年以降に製造された航空機に義務付けられたもので、事故機には搭載されていなかったとみられる。事故機は2017年にリースされた機体だった。

謎多き事故、原因究明は容易ならず

ブラックボックスの記録がない中、調査は難航している。調査委員会は「ブラックボックス以外の資料も分析し、原因究明に全力を尽くす」としているが、航空業界関係者からは「異例の状況が重なった今回の事故の原因を、ブラックボックスのデータなしに究明するのは容易ではない」との声が上がっている。

まず、最初の復行判断の過程や、1回目の着陸方向と反対方向に着陸した理由が不明だ。さらに、鳥衝突で両エンジンが停止した経緯、手動でも操作可能なランディングギアが出なかった理由、胴体着陸後に減速するためのフラップが出なかった理由など、解明すべき点は多い。

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ある航空会社関係者は、「今回の事故は異例の状況が重なり、大きな被害につながった。ブラックボックスのデータなしに正確な原因究明が可能なのか懸念される」と述べ、「他の記録や残骸分析で原因を推定できたとしても、関係者間で解釈の相違が生じる可能性もある」と指摘している。

事故の真相解明は、今後の航空安全にとって極めて重要だ。関係機関には、徹底した調査と再発防止策の策定が求められる。