奈良・大和郡山市の旧川本楼:消えゆく遊郭建築の中で、性買売の歴史を語る貴重な遺産

かつて隆盛を誇った遊郭建築が、時代の流れとともに姿を消しつつあります。奈良県大和郡山市では、老朽化に伴い多くの遊郭建築が解体される中、旧川本楼は貴重な歴史遺産として今もその姿を留めています。この記事では、旧川本楼の歴史的背景、保存の意義、そして今後の活用について探っていきます。

遊郭建築の衰退と旧川本楼の保存

かつて大和郡山市には、東岡町と洞泉寺町に遊郭が存在しました。しかし、2024年には東岡町のシンボル的存在だった木造3階建ての遊郭建築が倒壊の危険性から解体。洞泉寺町でも多くの遊郭建築が姿を消しました。

そんな中、1924年に建築された旧川本楼(木造3階建て)は、貴重な遊郭建築として残されています。99年には解体危機に瀕しましたが、大和郡山市が取得し、耐震改修を経て2018年1月より「町家物語館(旧川本家住宅)」として一般公開されています。

altalt旧川本楼:ハート型の三連窓が特徴的な、貴重な遊郭建築。大和郡山市が保存・公開しています。

旧川本楼:性買売の歴史を伝える貴重な資料

旧川本楼の価値は建物だけにとどまりません。近畿大学の人見佐知子教授(日本近代女性史)は、「建物だけでなく、歴史資料が一緒に残されているのが全国的に極めて珍しい」と指摘します。大和郡山市は建物と共に、娼妓名簿、精算書、遊客名簿など、遊郭の経営や娼妓の実態を知る貴重な資料も取得しています。

これらの資料からは、当時の女性たちが置かれていた過酷な状況や、遊郭の経済システムが明らかになります。例えば、人見教授の分析によると、昭和12年に19歳で娼妓になった女性は、5年間で前借金の10倍近くを売り上げていましたが、その約9割が店の収益になっていました。

altalt旧川本楼のハート型の三連窓:光の加減によってその数は変化し、見る者を魅了します。

旧川本楼の未来:性差と人権の歴史を学ぶ場として

遊郭を観光資源とする動きは全国的に広がっていますが、性買売の歴史は軽視されがちです。旧川本楼は、性買売という負の側面も含め、歴史の真実を伝える貴重な場所です。

人見教授は、旧川本楼を「人身売買された女性、もうけのからくりなど経営の実態を具体的に復元できるという点で、とても貴重」と評価し、「遊郭で人権侵害があった認識は多くの人にある。川本楼はその具体像を建物と資料とセットで理解できる可能性を持った稀有な存在」と見ています。

未来への提言:歴史から学び、未来を拓く

旧川本楼は、女性の人権の歴史や性差を学ぶ絶好の場となる可能性を秘めています。ワイツゼッカー元西ドイツ大統領の言葉「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」を心に刻み、この貴重な歴史遺産をどのように活用していくのか、今後の展開に注目が集まります。

過去の過ちを繰り返さないためにも、旧川本楼を未来への学びの場として積極的に活用していくべきでしょう。歴史から学び、より良い未来を創造していくことが大切です。