世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット」(コミケ)が今年も盛況を見せる中、日本のマンガ・アニメ文化を牽引する重要な存在である同人誌に欠かせない印刷業界が、近年、厳しい状況に直面しています。物価高騰とデジタル化の波は、同人誌文化を陰で支えてきた多くの印刷会社に廃業の危機をもたらしています。
東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケット(コミケ)の様子。同人誌印刷の収益性の悪化が懸念されている。
同人誌印刷業界が直面する経営悪化の現状
2025年7月時点で判明した全国約80社の同人誌印刷会社を対象とした分析によると、2024年度決算(2024年4月~2025年3月)では約4割の企業が赤字を計上し、さらに減益企業を加えると半数に上ることが明らかになりました。前年度の6割超からは改善したものの、依然として多くの企業が収益確保に苦慮しています。
コミケをはじめとした各地で開催される小規模イベントの通常開催により、印刷依頼数や発行部数自体は増加し、売上増を記録した企業も少なくありません。しかし、印刷業界全体の共通課題である原紙やインクなどの原材料価格の高騰に加え、人件費の上昇が利益を強く圧迫しています。
同人誌印刷を手掛ける企業の損益動向を示すグラフ。原材料費の高騰と価格競争により多くの企業が赤字・減益に陥っている。
品質と低価格のジレンマ:価格競争とデジタル化の波
同人誌印刷は、通常の印刷業務と比べ、上質紙からコート紙まで多様な紙質の在庫管理、小ロット対応、イベントに間に合わせるための超短納期仕上げなど、各工程でコストがかさむ傾向にあります。一方で、商業作家を除けば、金銭面で余裕がなく印刷にかける予算が少ない個人作家の利用が少なくないのが現状です。
さらに、同人誌のデジタル化の進展や、高品質・短納期・低価格を強みとするネット印刷大手の台頭により、価格競争が激化しています。同人誌の印刷大手をはじめ、ここ数年で段階的な価格改定を実施し、コスト増を販売価格に転嫁する努力を続けているものの、原材料価格の高騰ペースを全て吸収しきれておらず、厳しい経営環境が続いています。
日本の独自文化である同人誌は、多様なクリエイターの表現の場として、またサブカルチャーの発展に不可欠な要素です。その制作を支える印刷会社が直面する課題は、単なる経済問題に留まらず、文化の継承にも影響を及ぼしかねません。持続可能な同人誌文化のためには、印刷業界への多角的な理解と支援が求められています。