名古屋駅前の「聞き屋」:7年間、7100人の物語に耳を傾けて

名古屋駅の喧騒の中、静かに人々の言葉に耳を傾ける「聞き屋」がいる。水野怜恩さん(仮名)は2017年から名古屋駅前で、悩みや喜び、様々な人生の物語を聞いてきた。7年半、延べ7100組もの人々と向き合った水野さん。その活動の背景には、どんな思いが隠されているのだろうか。

聞き屋の誕生:偶然の出会いから生まれた使命感

名古屋駅前で聞き屋として活動する水野怜恩さん名古屋駅前で聞き屋として活動する水野怜恩さん

様々な職業を経験した後、占いに没頭していた時期に、水野さんは偶然「聞き屋」という活動を知った。特別な知識やスキルがなくても、誰かの支えになれるかもしれない、という思いから名古屋駅前の花壇で活動を始めた。先入観を持たれたくないという思いから、本名や年齢は明かしていない。

聞き屋の日常:路上での活動と静かな記録

聞き取り内容を記録するノート聞き取り内容を記録するノート

アルバイトの傍ら、夕方から夜にかけて自転車で名古屋駅前に現れる水野さん。 X(旧Twitter)で活動告知はするものの、自分から声をかけることはしない。訪れる人は様々で、時には人だかりができるほど賑わう日もあれば、誰一人として話しかけてこない日もある。真冬には重ね着をして寒さをしのぎ、暇な時間はスマートフォンを眺めて過ごす。夜遅くに活動を終え帰宅後には、その日に聞いた話をノートに書き留めている。これは水野さんにとって日課となっている。

聞き屋の哲学:アドバイスはしない、ただ耳を傾ける

道行く人と会話する水野さん道行く人と会話する水野さん

恋愛相談、仕事の悩み、人生の岐路…人々が水野さんに打ち明ける内容は多岐に渡る。しかし、水野さんは決してアドバイスをしない。「聞くのは好きだが、話すのは苦手」と語る水野さんは、ただひたすらに相手の言葉に耳を傾ける。 相手の話に共感し、寄り添うことが水野さんの流儀だ。例えば、失恋に悩む女性には「男は星の数ほどいる」と励まし、起業を目指す若者には「すごいですね」とエールを送る。 「あくまで他人」として、必要以上に深く関わらないように心がけているという。

聞き屋の未来:人との繋がりを求めて

時折スマートフォンで時間をつぶす水野さん時折スマートフォンで時間をつぶす水野さん

7年間、聞き屋を続けてきた理由を尋ねると、「惰性です」と控えめに笑う水野さん。しかし、コロナ禍を経て訪れる人が減ったことには寂しさを感じているという。「みんな自分のコミュニティができたのかもしれない」と語る水野さんの言葉には、人との繋がりを求める気持ちが垣間見える。

自転車で帰宅する水野さん自転車で帰宅する水野さん

聞き屋の活動を通して、水野さんは何を思い、何を感じているのだろうか。 名古屋駅前の片隅で、今日も水野さんは静かに人々の物語に耳を傾けている。