アメリカ企業で「多様性」見直し加速、保守派の批判やトランプ氏就任を控え

アメリカ企業の間で、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)施策の見直し機運が高まっています。これまで移民社会のアメリカでは、採用や昇進においてD&Iを重視することが企業の社会的責任として認識されてきましたが、保守派からの批判の高まりを受け、様々な業種で施策の廃止や縮小が相次いでいます。本記事では、この動きの背景や今後の展望について詳しく解説します。

マクドナルドやメタなど、大手企業がD&I施策を見直し

マクドナルド店舗の外観マクドナルド店舗の外観

ファストフード大手のマクドナルドは、管理職への女性の登用が進み、男女の賃金格差も解消したとして、D&Iに関する目標の一部を取りやめると発表しました。取引先に求めていたD&Iへの誓約なども終了するとしています。同社は、2023年の連邦最高裁による大学入学選考でのアファーマティブ・アクション違憲判決を踏まえ、「法的環境の変化も考慮した」と説明しています。

IT業界でも同様の動きが見られます。メタ(旧Facebook)は、採用活動におけるD&Iへの配慮を停止する計画だと報じられています。社内幹部は、法制度や政策の変更を理由に挙げ、専門部署の廃止やD&Iを考慮した取引先選定の停止を決定したようです。

小売り大手のウォルマートも、取引先との契約において人種や性別を考慮すること、そしてD&Iという用語の使用を取りやめる方針です。LGBTQ+支援イベントへの支援も見直すとしています。

D&I後退の背景にあるもの

2020年の「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動を契機に、企業はこぞってD&I推進に力を入れ始めました。専門部署や役職を新設する企業も相次ぎました。しかし、2023年の連邦最高裁の判決を境に風向きが変わりました。保守派はD&Iを支持する企業の商品ボイコットを呼びかけるなど、批判的な世論が形成されていきました。

さらに、20日に就任するトランプ前大統領もこの流れを加速させています。「連邦政府のあらゆるD&Iプログラムを終了する」と公言し、新設される「政府効率化省」のトップに就任予定の実業家イーロン・マスク氏もD&Iを「人種差別だ」と批判しています。

専門家の見解

人事コンサルタントの佐藤一郎氏は、「企業は社会の要請と政治的圧力の間で難しい舵取りを迫られている」と指摘します。「D&Iは企業にとって重要な経営課題だが、過度な政治的介入は企業の自主性を損なう可能性がある。バランスの取れたアプローチが求められるだろう」と述べています。

今後の展望

D&I後退の動きは、アメリカ社会の分断を反映していると言えるでしょう。企業は、株主や従業員、顧客、そして社会全体の利益を考慮しながら、D&Iに関する適切な対応策を模索していく必要があります。今後の動向が注目されます。