近年のタコ不漁により、庶民の味であるたこ焼きの価格が高騰しています。10年前の2倍という価格に、消費者は驚きを隠せません。そんな中、東海大学海洋学部の秋山信彦教授率いる研究チームが、2030年の事業化を目指し、タコの完全陸上養殖プロジェクトに挑んでいます。世界初の試みとなるこのプロジェクトは、成功すれば食卓に革命をもたらす可能性を秘めています。果たして、実現は可能なのでしょうか?
タコの完全養殖、3つの大きな壁
タコの完全養殖とは、人工孵化させたタコが産卵し、その卵から孵化したタコを育て、さらに産卵させるというサイクルを人工的に作り出すことを指します。現在、研究チームは海で捕獲した親ダコから得た卵を育てている段階で、完全養殖には3つの大きな課題が存在します。
課題1:親ダコの飼育
タコは縄張り意識が強く、複数のタコを同じ水槽で飼育すると共食いしてしまうという問題がありました。そこで、秋山教授らは「タコシェルター」を開発。試行錯誤の末、横長のシェルターで100匹の親ダコを共同飼育することに成功しました。
タコシェルター
課題2:幼生の餌
孵化したばかりのタコの幼生はプランクトン状態であり、自然界では偶然出会った餌を食べて成長します。しかし、人工飼育下では何を食べているのかが解明されておらず、適切な餌の開発が難航しています。水槽の水を攪拌することで人工飼料を与える技術は確立されましたが、栄養面が不十分で、着底まで成長させることができていません。
課題3:共食い
幼生が着底した後も、共食いは深刻な問題です。子ども用のシェルターを開発することで改善は見られたものの、原因不明の突然死が発生しており、依然として課題が残っています。
完全養殖の実現に向けて
これらの課題を克服するため、秋山教授らは日夜研究を続けています。親ダコのエサは冷凍のカニなどを用いた人工飼料で賄っていますが、コストが高く、市場に出せる価格での生産には至っていません。
水産養殖専門家の山田一郎氏(仮名)は、「タコの完全養殖は、持続可能な水産資源の確保という点で非常に重要な取り組みです。特に、近年のタコ需要の増加と不漁を考えると、その意義は計り知れません」と述べています。
たこ焼き
2030年の事業化という目標に向けて、研究チームは「一つ課題が解決すれば、一気に研究が進む可能性がある」と信じて、日々挑戦を続けています。タコの完全養殖が実現すれば、安定供給による価格の安定化、資源保護、そして新たな食文化の創造など、様々な可能性が広がります。今後の研究の進展に期待が高まります。