深海、そこは太陽の光が届かない暗黒の世界。しかし、そんな場所で酸素を生成している可能性のある金属岩が発見されたというニュースが、科学界を震撼させています。今回は、この「暗黒酸素」の謎に迫り、最新の研究成果と今後の展望についてご紹介いたします。
クラリオン・クリッパートン海域での驚きの発見
2023年7月、太平洋のクラリオン・クリッパートン海域の水深4000メートルで、マンガン、銅、コバルト、ニッケルなどの金属を豊富に含むジャガイモ大の岩石塊が発見されました。
クラリオン・クリッパートン海域で発見された金属を含む岩石塊
当初の研究では、この岩石塊が電荷を放出し、電気分解によって海水を酸素と水素に分解している可能性が示唆されました。もしこれが事実であれば、従来の「酸素は光合成によってのみ生成される」という常識を覆す大発見となります。
この研究を率いる英スコットランド海洋科学協会のアンドルー・スウィートマン教授は、「暗黒酸素」生成のメカニズム解明に向け、3年間の研究プロジェクトを始動。水深1万1000メートルまで到達可能なセンサーを搭載した特殊装置を用いて調査を進めています。このプロジェクトには、日本財団から多額の研究資金が提供されることになりました。
この発見は、深海、特にレアメタル採掘の対象となっているクラリオン・クリッパートン海域について、私たちの理解がいかに乏しいかを改めて示しています。
光のない場所で酸素はどのように生まれるのか?
酸素は通常、太陽光のエネルギーを利用した光合成によって生成されます。しかし、光が届かない場所で酸素分子が発見されたという報告は、実は他にも存在します。
カナダの地下水帯水層での事例
米海洋生物学研究所のエミール・ラフ氏の研究チームは、カナダ・アルバータ州の地下深くにある淡水の標本から酸素を検出しました。驚くべきことに、この酸素は最大で4万年以上もの間、地上の大気から隔絶されていたと考えられています。
ラフ氏のチームは、水中の微生物が酸素を生成していることを突き止めました。これらの微生物は、光合成に頼らずとも酸素を生成する仕組みを進化させてきたようです。具体的には、亜硝酸塩を分解する過程で酸素分子を生成し、さらにその酸素を使って水中のメタンを消費してエネルギーを得ていることが明らかになりました。
南アフリカの鉱山での事例
ラフ氏のチームは、南アフリカの鉱山の地下3キロメートルからも水の標本を採取しました。この鉱山の水には酸素が含まれていることが既に知られていましたが、その生成メカニズムは不明でした。現在、放射線分解説もしくは微生物による酸素生成の二つの仮説が立てられています。
深海研究の新たな扉を開く
スウィートマン教授は、海底における「暗黒酸素」の生成にも微生物反応が関与している可能性を探っています。特に、酸素生成時の水素の放出や、深海の微生物群による水素利用について焦点を当てた研究を進める予定です。
これらの研究は、地球上の生命の起源や進化、さらには地球外生命体の可能性を探る上でも重要な手がかりとなるでしょう。深海の謎は、まだまだ尽きることがありません。
「暗黒酸素」の研究は、まさに始まったばかり。今後の研究成果に期待が高まります。