定年を迎え、年金を受け取りながら穏やかな老後生活を送っていたものの、ひょんなことから前職に復帰することになった男性。しかし、「日本年金機構からの手紙」と「人事部からの知らせ」のダブルパンチによって、天国から地獄へ突き落とされてしまったのでした。具体的な事例をもとに、年金制度の注意点と老後破綻の回避策をみていきましょう。ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が解説します。
社内のエース!一目置かれる存在だった智之さん
中島智之さん(仮名)は現役時代、中堅衣料メーカーのマーケティング部に勤め、部長として数々の成果を挙げてきました。トレンドを的確に捉えたデザインや価格設定が功を奏し、智之さんが手がけた新作は軒並みヒットを記録。全国規模のキャンペーンやイベントも成功に導き、社内では一目置かれる存在でした。
日々のストレスは、週末のゴルフとキャンプで発散。充実したキャリアと趣味の両立を続けてきた智之さんは、65歳になり、惜しまれつつも定年退職を迎えることになりました。
また、同い年の妻・由美子さん(仮名)は、専業主婦として長年家庭を支えてきました。最近では趣味のヨガをよりいっそう楽しむため、週に2回ジムに通っています。
子どもたちはすでに独立し、現在中島夫婦は2人暮らしです。智之さんは、受け取った退職金1,200万円のうち、800万円を住宅ローンの一括返済に充てることにしました。残りの400万円とこれまでの貯金200万円を合わせ、資産合計は600万円です。
現在65歳の2人は、年金生活がスタート。智之さんの年金受給額は月19万円(老齢基礎年金6万円+老齢厚生年金13万円)、由美子さんの年金受給額は月6万円(老齢基礎年金のみ)です。
現役時代の年収800万円と比べると大幅な減収ですが、夫婦合わせて月25万円、年間で300万円ほどの収入となります。
「趣味の頻度も年金収入に合わせて少し減らさないとな……」
夫婦で話し合った末、智之さんはゴルフとキャンプ、由美子さんはヨガの頻度を減らすことにしました。贅沢はできませんが、つつましくも穏やかな老後を満喫していたそうです。