いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
● 自分に敬意を抱く
では、わたしたちの本質とは何か?
自由な人として、高潔な人として、自分を敬う人として、ふるまうことである。(エピクテトス『語録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
● 自分を「後回し」にしていないか?
年長者を敬いなさい、その国や土地の文化を敬いなさい、神仏を敬いなさい、自然を敬いなさい……。数多くの敬う対象があることは指摘されてきたが、「自分を敬いなさい」と言われたことはなかった。
「自分を大切にしなさい」は、よくある。「ご自愛ください」はもっとよくある(とくにメールの文末で使われる)。
しかし、「自分を敬う」という発想はなかった。
私は自分を敬っているかと聞かれたら、断じてノーだ。
自分の部屋は乱雑でいい、持ち物は古くてもいい、食事も適当でいい、自分のことは後回しが基本。敬う人に対する態度ではない。
● 「自分に厳しい」だけではない
「自分を敬う」だなんて斬新なことを言うのは誰かと見てみると、なんと2000年以上も前の哲学者であった。
しかも、エピクテトスはストア派の代表的な哲学者だ。ここでまた驚く。自分に厳しいイメージのある「ストア哲学」だと?
ストア哲学は古代ギリシャでゼノンによって始められた。
「ストア派のゼノン」は、高校の教科書にあったから覚えている。
ただ、ソクラテスやプラトン、アリストテレス、ピタゴラスらに比べてメジャーではない(私の中で)。というのも、ストア哲学の特徴とされている「禁欲主義」を「ああ、自分の欲求を抑えて聖人君子のように生きろというんだな。立派だけど面白くなさそうなんだよなー」と表面的にとらえ、教科書で読んでもすぐに忘れ去っているからだ(個人的感想です)。
「ストイック」という言葉は、ストイシズム(ストア哲学)からきているが、現代では「自分に厳しい」という意味で使われている。
しかし、本質はもっと深いところにありそうである。
● 毎日のルール「自分で自分を敬え」
本書では、ストイシズムについてこう説明している箇所がある。
ストイシズムは、私たちを内面の豊かさに引き戻し、自分でコントロールできることに意識を向かわせてくれる。その意味で、ほかの哲学とはまったく違ったかたちで、人生の目的や生き方を理解させてくれる。
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
ストア哲学者は、富や権力、名声、他人がどう思うかなど自分の力でコントロールできないことに執着するのをやめ、コントロールできることに集中しなさいと説いている。
自分自身の内面的な素晴らしさを高めることこそ、よい人生を送るために大切なのだという。それには当然、節制も必要になるが、最高の自分になるためである。
そうしてみると、「自分を敬う」という考え方がわかってくる。
人のために自分を犠牲にしたり、自分を卑下したりするのは、ストイシズムではない。
かといって、自分を甘やかし、贅沢させろというのでもない。自分自身を敬う価値のある人として認識し、ふるまうことが大事なのだ。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)
小川晶子