家父長制の起源 #1
ソ連が崩壊したことで失敗だったという評価が下されがちな旧社会主義国。しかし、「男女平等」の観点から見ると、ユートピアのような一面があったという。旧社会主義国であるハンガリーでは家事が外注化されていて、1982年の調査によると、女性で専業主婦と分類されていたのはわずか5パーセントだったというが……。
【画像】主婦と分類されたのは、ハンバリーがわずか5パーセントで、オーストリアは40パーセントだった…
その背景を、科学ジャーナリストのアンジェラ・サイニーが仔細に分析した『家父長制の起源』より一部抜粋、再編集してお届けする。
家事が「外注化」されていたハンガリー
「1990年代にアメリカを訪れたときのことです。人々が実際に自分たちで夕食をつくっているのを目にして驚いたことを覚えています」と、中央ヨーロッパ大学でジェンダー研究の准教授を務めるエヴァ・フォドルは言う。「私の想像をはるかに超えていました!」。
フォドルは国家社会主義が支配するハンガリーで、都会に暮らす聡明な共働きの両親に育てられた。「学校の食堂で昼食をとり、家に帰って夕食にサンドイッチを食べていました。つまり、母はまったく夕食をつくっていませんでした。食堂から食べ物を持ち帰る人たちもいました」と彼女は言う。
フォドルの両親は、洗濯物を公共の洗濯サービスに持ち込んでいた。「ほとんど無料」で洗って戻してくれるのだ。彼女が知っていた子どもの多くは、一定の年齢になると幼稚園に通った。それが彼女のような中流家庭の暮らしだった。
小さな町や農村地域の家庭では、選択肢はもっと少なかった。だが国家は、彼女が属する社会集団の人々に対しては、家庭で行うべき仕事の少なくとも一部を、政府が補助金を与える公共サービスに外注させることで支援していた。家事労働の完全な社会化である。
活動家のアンジェラ・デイヴィスは1981年、著書でこの画期的なアイデアを取り上げた。食料生産が家族経営の小規模農場での過酷な家内労働から大手の農業法人や食品メーカーによる大規模生産に移行したように、家庭での仕事はなぜ産業経済に取り込まれないのか。彼女はそう問いかけた。
「訓練を積んだ、高い賃金の労働者がチームになって、家庭から家庭へと回り、高性能の清掃機器を駆使すれば、現在、主婦が苦労して昔ながらのやり方でこなしている仕事を、迅速かつ効率的に仕上げることができる」とデイヴィスは言う。こうして合理化すれば、誰もが負担できる料金で、家事を提供できるようになる。
デイヴィスはこれを、資本主義社会の最も注意深く守られた秘密の一つだと説明し、「家事の性質を根本的に変える可能性が十分にある」と書いている。
もちろん、この夢は世界のどこでも実現されていなかった。だが、ヨーロッパの社会主義諸国では、少なくともそれに近づこうとする努力が見られ、女性は昔と同様に働くことができていた。