新聞やテレビなど、既存のメディアに対する不信感が高まっている。2024年11月に行われた兵庫県知事選では、支援者らが交流サイト(SNS)を駆使した選挙活動を展開して急速に支持を広げる一方、既存メディアに対する批判も拡大した。
インターネット上で真偽不明の情報が飛び交う中で、事実に根ざした報道の重要性は増している。しかし、テレビや新聞は「オールドメディア」と呼ばれ、SNSにその影響力を奪われつつある。
既存メディアに対する不信感はなぜ生まれたのか。その背景に何があるのか。各界の識者に考えを聞いた。教育社会学者の福島創太さんは、SNS世代にとっては情報を吟味するより素早く反応することが重要だと話し、その結果生じる認知の偏りや、背景にある価値相対主義は、深くものを考える態度を遠ざけることになると警鐘を鳴らす。(聞き手 共同通信=名古谷隆彦)
▽キャッチし続けるSNS情報、そこでストップする思考
中高生の視点から、既存メディアに対する不信と交流サイト(SNS)への傾倒を考えてみます。生徒たちは新聞やテレビのニュースとの接点がほとんどなく、めったに話題にしません。一方で、主要な生活空間である教室で友人たちと心地よく生きるには、SNSの情報をキャッチし続けることが必須条件です。
一連の兵庫県知事選の問題も「不当にいじめられている人がいるらしい」というSNSの勧善懲悪の物語が、情報を知る端緒になっていました。
しかし、そこで思考が止まってしまいます。ではなぜ選挙が実施されることになったのか、という点を調べる行動にはつながらないので、新聞のニュースにもたどり着きません。接点が薄い中でも既存メディアに否定的な印象を持つ生徒はいますが、確たる根拠はないのです。
SNSには、広範な情報にアクセスできるツールだと思い込ませる力があります。世界中のどんな情報や動画にでもアクセスできる。直感的には幅広い印象を受けますが、実は自分が共感したり、親和性のある考え方をもつ人やメディアだけの発信にしか触れられていなかったりすることも多い。生徒たちは情報のフィルターバブルの中にいる認識がありません。
シニア層は、新聞とSNSは別物だという感覚を持っていると思いますが、若者にはSNSが全てで、その中にニュースもあれば趣味的なものも含まれている。そのような関わり方だと、さまざまなテーマの情報がフラットになりがちです。
「いいね」を押すか、スルーするかがほぼ全てのアクションで、しっかり受け取って考える所作も求められません。LINE(ライン)でもリアクションがない人はブロックされることがあり、いつもせかされています。反応するスピードが生命線なのです。そうした情報との接し方を身につけるほど、既存メディアとは距離ができます。