世俗の独善王はノーベル平和賞がお好きらしい。
「2017年(第一次トランプ政権時の)と同様に、再び世界最強の軍隊を築く。戦いに勝つことだけでなく、我々が終わらせる戦争、そして何よりも参戦しない戦争によって成功を測る。私が最も誇りとするレガシー(政治的遺産)は、平和をもたらし、人々を一つにまとめる存在であることだ。それが私の望む姿だ」(日本経済新聞 1月21日付)
【写真】『私とスパイの物語』対談 近藤大介×孫崎享「世界はスパイが動かしている」
去る1月20日の大統領就任式で、アメリカのトランプ新大統領はこう述べた。
ウクライナはバイデン父子マター
広く知られるように、トランプ氏はウクライナ戦争を早期に終わらせると約束している(半年前には「24時間で」と大見得を切っていたのが、近頃になり「半年か、それより早く」と後退したものの)。
ただし、同氏の興味は戦争を終わらせること(=休戦もしくは停戦)にあって、ワシントンから大西洋を越えて遠く8000キロも離れたウクライナの将来(=和平)にはないはずだ。
そもそもトランプ氏にとり、アメリカによるウクライナ問題への関与はバイデン父子マターでもあるからだ。むしろ、関わりたくもない、というのが本音ではないか。冒頭の一節は、そう言っているように聞こえる。
付言すれば、オバマ政権(2009-2017年)の副大統領だったバイデン前大統領は、2014年2月にキーウで起きたマイダン動乱を支持し、政変後に誕生したポロシェンコ政権を後押しした。
マイダン政変後、長男のハンター・バイデン氏がウクライナ最大のガス企業「ブリスマ社」の取締役(2014-2019年)に就任して高額の報酬を得ていたことは、キーウ市民の知るところでもあった。これが、第一次トランプ政権下(2017-2021年)のアメリカ政界を騒がせた。
そして当時、トランプ氏はロシアへの制裁を強化する一方で、ウクライナのポロシェンコ政権に対しては概して冷ややかだった経緯もある。
したがって停戦後、和平への厄介なプロセスは、ヨーロッパが解決すべき問題として、欧州連合(EU)とヨーロッパ主要国の手に委ねられるのではないか。ちなみに、ヨーロッパにおけるトランプ氏の興味がデンマーク自治領のグリーンランド島にあることは、大統領就任前に表明されて物議をかもした。