昭和との決定的な違い – 未来に不安を抱く令和世代と「課題解決力」の重要性

現代の日本社会、特に若年層の間で、未来に対する漠然とした不安が広がっています。経済の停滞、環境問題、社会構造の変化など、様々な要因が複雑に絡み合い、将来への楽観的な見通しを持つことが難しくなっています。このような時代背景の中で、令和時代に社会や企業から真に求められる人材とはどのような人物なのでしょうか?これは、単にスキルや知識だけでなく、未来への向き合い方や「課題解決能力」という視点から考える必要があります。本稿では、昭和から令和へと時代が移り変わる中で変化した未来への見方、若者の未来への不安、そしてこれからの時代に不可欠な能力について掘り下げていきます。

昭和時代と令和時代:未来への見方の違い

未来事業創研ファウンダーの吉田健太郎氏は、彼の中学2年生の息子が放った「俺、昭和に生まれたかったわ」という言葉から、現代の若者が抱える未来への思いを感じ取ったと言います。息子がその理由として挙げたのは、「だって昭和の方が楽しそうじゃん」という素朴な感覚でした。吉田氏は、この言葉の背景には、昭和時代が持つ「不便を解消することで生活が向上していく」というポジティブで分かりやすい未来へのエネルギーがあったと分析しています。

私が子どもだった昭和50年代を振り返っても、家庭や学校で地球全体の未来に関わる大きな課題について深く考えるよう求められる機会はほとんどありませんでした。世の中は自然と進化し、時間が経てばもっと快適で便利な暮らしが待っている、という楽観的な未来像が共有されていたように思います。技術の進歩が生活の質を直線的に向上させる、という分かりやすい図式が、人々に未来へのワクワク感と勢いを与えていたのです。

一方で、現代はどうでしょうか。教育現場でもメディア報道でも、地球温暖化、食糧不足、経済格差といった世界規模の課題や、日本の消滅可能性都市問題、少子高齢化、労働力不足といった国内の深刻な問題が日々取り上げられています。未来は今より悪くなるかもしれない、あるいは悪くならないようにするにはどうすれば良いか、といった「課題」ばかりが提示され、未来が今より良くなる、楽しくなるという希望が見えにくい状況にあります。これは、まさに「あなたたちは未来に向けてどんな課題解決をしてくれるのか?」という、より高次の問いが社会から突きつけられている時代の変化を示唆しています。

未来への漠然とした不安を感じている若者のイメージ未来への漠然とした不安を感じている若者のイメージ

若者が未来に抱く具体的な不安

2025年現在、多くの人々が未来に対して期待よりも不安を感じていますが、この傾向は日本の若年層において特に顕著です。ソニー生命が実施した調査によると、日本の中高生の6割以上が、10年後の日本や世界に対して不安を抱いていると回答しています。

彼らが生まれてからの短い期間に、東日本大震災のような大規模な災害が発生し、その被害の実態や復興の難しさをインターネットを通じてリアルタイムで知ることができた、という経験は無視できません。また、世界に目を向ければ、常に複数の地域で紛争や戦争が起きており、国際情勢の不安定さも彼らの不安を増幅させています。これらの出来事は、未来が必ずしも平和で安定した方向に向かうとは限らない、という厳しい現実を突きつけています。

さらに、環境問題や社会課題に関する情報が容易に入手できるようになったことで、彼らは幼い頃から未来が抱える困難に直面しています。これにより、「どうすればより良い未来を築けるか」というよりも、「どうすれば今より悪くなるのを防げるか」という、防御的な、あるいは現状維持に重きを置いた思考になりやすいのかもしれません。未来が自然と良くなるという前提が崩れ去り、自分たちが積極的に「課題解決」に取り組まなければ未来は悪化するという、ある種の重圧を感じているとも言えます。

ポストSDGs時代に求められる「課題解決力」

このような背景を踏まえると、令和時代、そしてその先のポストSDGs時代に社会から求められる人材像がより明確になってきます。もはや、与えられた仕事を効率よくこなすだけ、あるいは既存の仕組みを改善するだけでは不十分です。時代は「未来に向けてどんな課題解決をしてくれるのか?」という問いに真摯に応えられる人材を求めています。

これは、単にSDGsに掲げられた目標を達成するというだけでなく、その先の未来を見据え、新たな社会のビジョンを描き、そこに到達するための具体的な課題を見つけ出し、解決策を実行していく能力を指します。複雑化する社会問題、予期せぬ危機、そして価値観の多様化に対応するためには、既存の枠にとらわれず、多角的な視点から問題を分析し、創造的な解決策を生み出す力、すなわち「課題解決力」が不可欠となります。

ソニー生命調査:日本の中高生が10年後の未来に不安を感じている割合のグラフ

未来への不安が広がる時代だからこそ、その不安を乗り越え、希望を見出す力が必要です。そして、その力こそが、目の前の課題から目を背けず、果敢に解決に挑む姿勢と能力に他なりません。これからの時代は、単に与えられたレールを進むのではなく、自ら課題を発見し、解決へと導く「未来思考」を持つ人材が、社会を牽引していくことになるでしょう。

(結論)
昭和時代が「便利さの追求」によって未来への希望を育んだのに対し、令和時代は「複雑な課題への挑戦」を通じて未来を切り拓くことが求められています。若者が未来に不安を感じている現状は、私たちが直面している課題の大きさを物語っています。しかし、この不安を単なる悲観で終わらせるのではなく、より良い未来を創るためのエネルギーに変えることが重要です。そのためには、個々人が未来に主体的に関わり、課題解決に取り組む「未来思考」を育む必要があります。ポストSDGsを見据え、社会全体で未来への希望を再構築し、困難な課題に立ち向かう人材を育成していくことが、今、最も求められていることなのかもしれません。

参考文献

  • 電通 未来事業創研『未来思考コンセプト ポストSDGsのビジョンを描く』(クロスメディア・パブリッシング)
  • ソニー生命「中高生が思い描く将来についての意識調査」など関連調査