経営難に陥っていた経緯
タレントの小島瑠璃子さんの夫、実業家の北村功太さんが、自宅マンションから救急搬送されて死亡したことが、2月4日に報じられ1週間以上が経った。
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北村氏はまだ29歳と若かったが、小島さんは、「亡くなった原因につきましては、詳細を控えさせていただきます。こんなにお騒がせしながらもご説明できないことを心苦しく思いますが、どうかお許しください。夫は家族思いで優しく責任感の強い人でした」と、辛い心境のコメントを発表した。
夫妻は23年に結婚、昨年は第1子が生まれており、幸せなムードの中にあったが、北村さんが創業して代表取締役を務めていた会社、Habitatの経営が順調でなかったという指摘がメディアなどでされている。’22年11月、北村さんから新事業の説明を受けたという運送会社社長のKさんは、北村さんと会った印象をこう語っている。
「誠実で頭のいい若者という感じでした。ちょっと早口で、ステートメントとかコンシューマーとかのカタカナ言葉や、LTVとかCACとかの略語をたくさん使っての説明は、50代の私には難しいところがありましたけど、押しつけがましいところもなく、丁寧に事業の説明をされていました」
Kさんは、北村さんに出資した知人の投資家を通じて知り合い、サウナ事業への投資を勧められたという。
「リムジンで送迎するような完全予約制の高級サウナを直営するのと、利用客のデータを集めて分析するデジタルシステムの販売、コンサルティングもしているという話でした。私の本業は運送業ですが、前から事業拡大で、持っていた空き倉庫をスパ施設に転換していたことで、高級サウナの話に繋がったんです」
北村さんが手掛けていたサウナ向けのデジタルツールは、日本で「サ活」と呼ばれるサウナブームに乗ったウェルネス産業として注目を浴びていた。顧客管理や設備稼働率を最適化できるというものだ。
ベンチャー企業の厳しい現実
ただ、経営者として長い経歴を持つKさんから見ると、「サウナ市場は、国内には数に限りがあって決して大きくないし、個人経営の小規模施設も多いので、コスト負担が大きすぎると新システムの導入はハードルが高い」という懸念を持った。結局、Kさんは、北村さんの事業への投資は見送り、都内で一度、会ったきりになってしまったという。
「お会いした後も、3週間ぐらいの間に3度か4度、電話を頂いて、出資者が増えていることや、別のアイデアを話されていました。『また会いましょう』と言ってくださったんですが、機会がないままでした。昨年の夏ぐらい、仲介してくれた投資家が『(北村さんの事業が)いろいろ難しそうだ』という話もしていました」
Habitatは、キャンプ施設などに置くだけでサウナ室になるトレーラーサウナの事業にも力を入れていたが、その投資家は「高級サウナやデジタルシステムが思ったより伸びなくて、新たに資金調達が必要になったからトレーラーを推しているのかもしれないではないか」という見方をしていたという。Kさんは「トレーラーは利益よりも設備投資が大きいので、短期で見てしまうと危ない事業ではないかと思った」と話す。
トレーラーサウナは、一部商業メディアなどでは、コロナ禍以降のアウトドア需要の拡大で、新しいレジャー体験として注目されてはいた。地方創生の一環として、全国の自治体が観光地などに導入を検討するケースも期待され、住宅メーカーも参入したり、賃料収入が入る投資用物件としても紹介されている。
「でも、トレーラー自体の製造コストが高いと、導入価格も高くなるし、定期的な点検・整備のコストも必要。それと設置場所の制約や消防法などの公的な規制が絡む不安もあって、まだ未知数なところも多いと思いました」
経済誌の記者に、Habitatについての意見を聞いてみると、「革新的なサービスを提供するベンチャー企業は、生存率が創業から5年後で15%といわれる厳しさで、上場する確率は0.1%以下。かなり資金力がないと、小規模のスタートアップでは厳しい展開になることが多いので、どれだけ代表者の能力やアイデアがあっても成功するとは限らず、難しい挑戦になりやすい」とした。
志の高い若者による、大きな夢を持ったチャレンジは称賛したいが、現実問題として失敗するリスクも小さくはない。それを思えば北村さんには、たとえ失敗しても、何度でも再チャレンジして、成功までのキャリアにしてほしかったが、彼のスマートなプレゼンテーションは永遠に失われてしまった。その夢を支えた妻の小島さんや、彼を応援していた人々の心痛も計り知れない。
片岡 亮(フリージャーナリスト)