開業医の増加と必須診療科の減少という、韓国医療の現状について深く掘り下げていきます。専門医資格を持たない医師による開業増加の背景や、小児科・産婦人科の閉鎖が社会に及ぼす影響について解説します。
専門医不足が加速する韓国医療の現状
韓国では、専門医資格を持たない「一般医」による医院開業が増加の一途を辿っています。2024年には新規開業医院の約3分の1が一般医によるもので、その数は前年比で大幅に増加しました。この傾向は、韓国医療制度の構造的な問題を浮き彫りにしています。
韓国の病院の様子
一般医とは、医科大学卒業後、国家試験には合格しているものの、専門医の資格を取得していない医師のこと。研修医を途中で辞めて開業するケースも含まれます。専門性の不足から、美容外科や皮膚科、自由診療を中心とした医院開業が目立ちます。
なぜ専門医ではなく一般医の開業が増えているのか?
その背景には、大学病院の過酷な労働環境と、自由診療クリニックの高収入という現実があります。元研修医の証言によると、美容クリニックでは労働負担が軽く、給与も大学病院の倍近くになるそうです。また、海外での就職が難しい場合、自由診療中心のクリニック開業を選ぶ医師もいるようです。医療経済学者、金田教授(仮名)は、「若手医師のキャリアパスとして、専門医取得よりも経済的な安定を求める傾向が強まっている」と指摘しています。
小児科・産婦人科の閉鎖が社会に暗い影を落とす
一般医による開業増加の一方で、小児科や産婦人科といった、社会にとって必要不可欠な診療科の閉鎖が相次いでいます。2024年に閉鎖した医院のうち、小児科と内科はそれぞれ64カ所、産婦人科は40カ所にも上ります。
閉鎖の主な原因:低い診療報酬、医療訴訟リスク、過酷な労働環境
低い診療報酬、医療訴訟のリスク、過酷な労働環境などが、小児科や産婦人科の閉鎖を加速させています。保険診療が中心の小児科や内科では、自由診療のような高収入は期待できません。患者への丁寧な説明が必要な一方で、診療報酬は低く、経営難に陥る医院が多いのが現状です。
さらに、医療事故訴訟の増加も医師の大きな負担となっています。特に小児科や産婦人科は医療ミスが生命に直結するため、訴訟リスクが高く、医師の精神的な負担も大きいのです。医療訴訟専門弁護士、朴弁護士(仮名)は、「高額な賠償金が命じられるケースもあり、医師の開業意欲を削いでいる」と警鐘を鳴らしています。
韓国医療の未来への提言
専門医不足と必須診療科の閉鎖という深刻な問題を抱える韓国医療。持続可能な医療体制を構築するためには、抜本的な改革が必要です。診療報酬の適正化、医療訴訟制度の見直し、医師の労働環境改善など、多角的な対策が求められています。
韓国の医療の現状は、私たちにとっても他人事ではありません。より良い医療制度の実現に向けて、私たち一人ひとりが関心を持つことが重要です。