日本を拠点とする大手VTuber事務所「ホロライブ」を運営するカバー株式会社が、2025年4月に正式リリースした仮想世界「ホロアース」において、重大交通事故の加害者に酷似したキャラクターが登場し、運営元への批判が殺到している。同社は公式Xにて問題のキャラクターを削除したことを発表したが、波紋は広がっている。
ホロアースとVTuber文化の進展
「ホロアース」は、プレイヤーやファン自身が参加できるメタバース空間であり、VTuberとファンが仮想空間上で直接交流できる画期的なサービスとして注目を集めていた。VTuberはアバターを通じて生身の人間が演じるYouTuberであり、近年ではアイドル的人気を博し、ファン層を拡大している。この「ホロアース」は、そのVTuber文化の新たな集いの場として期待が寄せられていた。
VTuber事務所ホロライブを運営するカバー株式会社のロゴマークと所属タレントのイメージ
問題のキャラクター「コウゾー」の登場
批判の的となっているのは、10月23日のアップデートで追加されたエリアに登場した新キャラクター「コウゾー」だ。このキャラクターは、白いバケットハットに白シャツ、グレーのズボン、眼鏡姿の年配の男性という外見をしていた。プレイヤーが話しかけると、「機械の変なところをいじって 気づけばこんなところに…」「孫に任せればよかったよ困ったなぁ…」といった発言をする様子が、X(旧Twitter)上でスクリーンショットと共に拡散された。
多くのSNSユーザーは、このキャラクターが2019年に東京・池袋で発生したプリウス暴走事故の加害者、飯塚幸三氏を強く想起させると指摘した。飯塚氏は当時3歳の女の子とその母親の命を奪い、2021年に禁錮5年の実刑判決を受けて収監され、2024年に老衰のため死去している。キャラクターの名前、雰囲気、そして発言内容が、飯塚氏を意図して制作されたと解釈されるのは自然な流れであった。
SNSでの批判と運営元の対応
この事態に対し、X上では「死者の出た事故で、なおかつ飯塚氏本人も亡くなっていることから『揶揄するのは不謹慎すぎる』」といった批判の声が殺到した。
これを受け、カバー社は「当該キャラクターにつきましては、確認後ただちに削除対応を行っております」と公式Xで発表。同時に、「実在の人物を想起させる表現が含まれていることが確認されました」と問題を認めた。しかし、同社は一方で「当該キャラクターは、アバター表現の多様性を目的として、既存のファッションアイテムを用いて制作したものであり、制作過程において特定の人物を意図した事実はございません」と、飯塚氏を想定した制作意図は否定した。
本誌がカバー社に改めて見解を問い合わせたところ、同社は「弊社が開発及び運営しております『ホロアース』におきまして実在する人物を想起させるような表現が行われたことに対し、ホロアース公式Xアカウントより皆様へご案内を行わせていただきました。このたびは、多くの方に誤解を生むような配慮に欠けた表現の実装を行い、関係者の皆様やホロアースをご利用されているお客様へ多大なるご迷惑とご不快な思いをさせてしまいましたこと心よりお詫び申し上げます」と回答した。
企業の倫理観と今後の課題
今回の騒動は、デジタル空間におけるコンテンツ制作と企業の倫理観のあり方を改めて問いかけるものとなった。特に、社会的に大きな影響を与えた事件や実在の人物を安易に想起させるような表現は、たとえ意図せずとも深刻な誤解や不快感を生み出す可能性がある。新時代の「集いの場」として発展を目指すメタバースにおいて、開発・運営企業には、より一層の社会的責任と配慮が求められると言えるだろう。




