「わび・さび」「数寄」「歌舞伎」「まねび」そして「漫画・アニメ」。日本が誇る文化について、日本人はどれほど深く理解しているでしょうか?
【写真】「にほん」と「ニッポン」…なぜ日本人は国名を2通りに使い分けるのか
昨年逝去した「知の巨人」松岡正剛が、最期に日本人にどうしても伝えたかった「日本文化の核心」とは。
2025年を迎えたいま、日本人必読の「日本文化論」をお届けします。
※本記事は松岡正剛『日本文化の核心』(講談社現代新書、2020年)から抜粋・編集したものです。
「和」と「ヤマト」と「日本」
聖徳太子は「和を以て貴しと為す」(以和為貴)というふうに17条憲法に書きました。もとは孔子の弟子の有若が「礼の用は和を貴しとなす。先王の道もこれを美となす」と言ったことにもとづきます。
この「和」は争わないことや調和を保つことで、漢字の「和」という一文字には「やわらか」「なごみ」「むつむ」と意味があります。一方、和風建築や和様書や和式トイレや和算の「和」は日本風という意味です。こちらは日本を「大和」と呼称したところから派生します。大和はヤマトです。この大和という言い方には、すでにして「和」が起動していました。
それでは、なぜヤマトが日本になり、日本はヤマトなのでしょうか。日本朝廷はなぜヤマト朝廷になったのでしょうか。
現在の日本の国号はいうまでもなく「日本」です。憲法は日本国憲法、政府は日本政府、中央銀行は日本銀行、国語は日本語。そんなことはいまさらながらのことのようですが、必ずしもそうとは言えません。戦前までは「大日本帝国」でしたし、徳川時代はあまり「日本国」を名のらず、好んで「秋津島」とか「扶桑の国」と言っていた。
英語表記は「Japan」です。他国語での呼び方は綴りが少しずつちがいますが、だいたいは似ている。フランス語ではジャポン、ドイツ語ではヤーパン、スペイン語ではハポン、イタリア語ではジャッポーネ、ロシア語ではヤポーニア。いずれも一四世紀初頭のヴェネツィア共和国のマルコ・ポーロが中国語で交わされていた“Cipangu”をイタリア語ふうに報告したのをベースに、大航海時代に日本のことをポルトガル語で「ジパング」(Xipangu/Zipang)と発音表記したりしたことにもとづきます。
中国はいまではジャパンのチャイニーズ読みでジーペンと言っていますが、古代中国では「倭」と名付けていたのです。ちなみに韓国ではニッポンのコリアン読みのイルポンです。このように日本は必ずしもヤマトではなかったのです。
国号や国名はナショナル・アイデンティティをあらわすと思われているけれど、実はけっこう任意なところがあります。それは各国とて同じです。イギリスとUK、アメリカとUSAみたいなものです。「大和」と「日本」は併存しているのかというと、まあ、そうです。ただしそれが日本国に定着するまでには、それなりの紆余曲折がありました。