防衛省のシンクタンク、防衛研究所は8日、中国の安全保障に関する動向を分析した年次報告書「中国安全保障レポート2020」を公表した。中国が巨大経済圏構想「一帯一路」を経済進出のみならず、国際秩序を変革する取り組みの一つに位置づけ、中央アジアや欧州などユーラシア大陸西方に進出していると指摘。「欧州で警戒感を呼んでいる」とまとめた。
報告書のテーマは「ユーラシアに向かう中国」。過去の報告書は、各国の強い反発を招いている海洋進出の分析が多かったが、今回は大陸で影響力を広げている現状に触れた。
報告書では、一帯一路について「新興国や途上国の発展とそれに伴う国際的な影響力の増強」が目的に加わったと強調した。中国の西隣に位置する旧ソ連の中央アジア5カ国はロシアとのつながりが強い。だが、内陸国であるため、海洋への物流アクセスを向上させる観点で一帯一路を受け入れていると指摘した。
ロシアにとっても、主要な対立相手が米国であることから「(中国との)利害の相違はなんとか管理しながら、米国を非難する際に中国の賛同の声を得ることがロシアの利益になる」とし、便宜的な協力関係にある現状を解説した。
中国は2015年頃から中欧や東欧に、影響力を強める目的も含め関与を強めていると分析。また、米のステルス戦闘機F35製造に技術が使われているとされるドイツの産業用ロボット大手「クーカ」が2016年に中国企業に買収された例を挙げ、「中国への技術流出の懸念が欧州や米国で高まった」とした。
そのうえで、中国は「欧州での影響力の拡大がもたらす反作用をいかに管理していくのかという課題に直面している」と記した。
一帯一路をめぐっては、海外に建設した重要インフラを軍隊が防護するなど「軍事プレゼンスの拡大」が指摘されているが、中国脅威論が高まる可能性があることなどから「中国人民解放軍の海外展開を常態化させることはそう簡単ではない」と分析した。