日本の医療政策:世界観と歴史観を取り戻せ!

日本の医療政策は、岐路に立っています。国民の健康を守るという大義名分を掲げながらも、世界の流れから取り残され、閉塞感に包まれているように感じます。本稿では、日本の医療政策に欠けている「世界観と歴史観」を取り戻す必要性について解説します。

国産ワクチンはなぜ実現しないのか?

新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て、感染症対策への関心はかつてないほど高まりました。厚生労働省はワクチンや治療薬の国産化を推進していますが、その道のりは険しいと言わざるを得ません。

製薬企業のグローバル戦略

多くの国内製薬企業にとって、国産にこだわることは必ずしも合理的ではありません。世界市場を見据え、海外での開発・販売に注力する企業が多いのが現状です。2023年度の主要国内製薬企業の海外売上高比率は、武田薬品工業を筆頭に軒並み高水準となっています。これは、世界的な市場規模や成長性、そして日本の医療費抑制政策などを考慮すれば、当然の経営判断と言えるでしょう。

製薬会社の海外売上高比率製薬会社の海外売上高比率

例えば、米国市場は2023年には7102億ドルと巨大な規模を誇り、今後も成長が見込まれています。一方、日本市場は医療費抑制の影響で縮小する可能性すらあります。このような状況下で、国産ワクチンや治療薬の開発に優先的に投資する企業は限られています。

世界の流れに適合するために

結果として、国産ワクチン開発を担うのは、海外市場での競争力に乏しい一部の国内メーカーに限られてしまう可能性があります。補助金頼みの開発体制では、真のイノベーションは生まれません。

世界に通用するワクチンや治療薬を開発するには、世界の流れに適合することが不可欠です。ルイ・ヴィトンの新作が銀座よりも先にニューヨークで販売されるように、医療の世界でもイノベーションはグローバルな競争の中で生まれます。

医療費抑制政策の功罪

日本の医療は、厚生労働省による価格統制や量的規制が色濃く残る数少ない分野です。医学部定員数から医療費の価格まで、中央社会保険医療協議会(中医協)が決定権を握っています。

閉鎖的な意思決定構造

中医協の意思決定プロセスは、必ずしも透明性が高いとは言えません。官僚、族議員、業界団体の思惑が優先され、医療現場の声が軽視されるケースも少なくありません。

医療費抑制政策の課題医療費抑制政策の課題

このような閉鎖的な意思決定構造は、医療イノベーションの阻害要因となっています。価格統制によって、製薬企業の研究開発意欲が削がれ、新薬開発の遅れにつながる可能性があります。また、量的規制は医療資源の最適配分を妨げ、医療の質の低下を招く恐れがあります。

世界観と歴史観の欠如

日本の医療政策には、世界観と歴史観が欠けていると言わざるを得ません。世界的な医療イノベーションの潮流を理解し、歴史的な教訓を踏まえた政策立案が求められます。

医療は国民の健康と生命を守る重要な基盤です。世界の流れに目を向け、未来志向の政策を推進することで、日本の医療の未来を切り拓く必要があります。