インターネットの動画配信サービスが普及する中、地方の民間放送事業者は新たな挑戦を始めています。今回は、九州地方のテレビ局の取り組みを中心に、地域密着型の番組制作や経営基盤強化の現状を詳しく解説します。
地域密着で視聴者獲得を目指すKBC
KBCの新番組「ぎゅっと」の制作風景。地域密着型の番組で視聴者獲得を目指しています。
福岡市の九州朝日放送(KBC)は、2025年1月に夕方の自社制作情報番組「ぎゅっと」をスタートさせました。キー局の番組を放送していた時間帯に、あえて自社制作番組を投入するという大胆な戦略です。水色の明るいセットで、地元のニュースや情報を発信しています。
テレビ朝日系列のKBCは、全番組における自社制作番組の比率が2割と、地方局の中では高い割合を誇っています。朝の情報番組も40年近く続く長寿番組です。今回、夕方の時間帯にも自社制作番組を投入することで、地域密着をさらに強化し、幅広い視聴者層へのアプローチを目指しています。KBCの森君夫社長は、「地域密着を徹底し、視聴者のニーズに応える番組作りを心がけている」と語っています。
九州・山口・沖縄の民放の歴史を紐解く
日本の民間放送は、1953年に日本テレビ放送網が関東で放送を開始したのが始まりです。九州・山口・沖縄地方では、1958年にRKB毎日放送(TBS系列、福岡市)が全国6番目の民放として開局しました。その後、1959年には長崎放送(NBC、長崎市)、熊本放送(RKK、熊本市)、山口放送(KRY、山口県周南市)などが次々と開局。1995年の琉球朝日放送(QAB、那覇市)の開局により、9県で計29社の地上波放送局が誕生しました。
中には長寿番組を持つ局もあり、テレビ熊本(TKU、熊本市)の「若っ人ランド」は37年以上、福岡放送(FBS、福岡市)の「めんたいワイド」は30年もの間、地域に根差した番組を制作し続けています。これらの番組は、地元住民にとってなくてはならない存在となっています。
動画配信サービスの台頭と地方局の挑戦
地方局は、動画配信サービスの台頭という逆風にさらされながらも、地域密着型の番組制作で新たな活路を見出そうとしています。
長年、「茶の間の主役」として君臨してきたテレビですが、近年はYouTubeなどの動画投稿サイトやNetflixなどの動画配信サービスの普及により、視聴者の奪い合いが激化しています。地方局も例外ではなく、厳しい状況に立たされています。
こうした逆境の中、地方局は地域密着型の番組制作に力を入れることで、視聴者獲得を目指しています。地元のニュースやイベント情報、地域住民の生活に密着した特集などを積極的に放送することで、地域への貢献度を高め、視聴者の共感を呼ぶ番組作りに取り組んでいます。
例えば、地域に特化したグルメ情報や観光スポットの紹介、地元企業の取り組みなどを紹介する番組は、視聴者にとって身近で有益な情報源となるだけでなく、地域経済の活性化にも貢献しています。
また、高齢化が進む地域では、高齢者向けの健康情報番組や、地域住民の交流を促進する番組なども重要性を増しています。
専門家の意見
メディアコンサルタントの山田一郎氏は、「地方局は、地域密着という強みを活かすことで、動画配信サービスとの差別化を図ることができる。地域住民のニーズを的確に捉え、質の高い番組を提供することで、視聴者からの支持を獲得することが重要だ」と指摘しています。
地方局は、動画配信サービスの台頭という逆風にさらされながらも、地域密着型の番組制作で新たな活路を見出そうとしています。今後の地方局の取り組みが、地域社会にどのような影響を与えるのか、注目が集まります。