東雲住宅問題:福島原発事故避難者と福島県の14年続く葛藤

東京湾岸エリアにそびえ立つ高級タワマン、東雲住宅。東日本大震災の爪痕は、今もなおこの地で暮らす福島原発事故避難者と福島県の間に深い溝を作っています。14年という歳月が流れ、未だ解決の糸口が見えないこの問題、一体何が起きているのでしょうか?

福島県が提供した「仮住まい」の現実

2011年の東日本大震災後、福島県は国家公務員宿舎である東雲住宅を借り上げ、避難指示区域外からの自主避難者を含め、約1300人を受け入れました。36階建て、総戸数900戸という大規模なこのタワマンは、避難者にとって一時的な安住の地となるはずでした。最寄り駅から徒歩10分、大型ショッピングモールも隣接する好立地に加え、家賃は周辺相場の6分の1から8分の1という破格の値段(ワンルームで約1万7000円、1DKで約2万5000円)。しかし、この「仮住まい」をめぐる問題は、後に大きな波紋を広げることになります。

altalt(2011年3月24日撮影の福島第一原発。この事故が多くの人の人生を大きく変えました。)

退去期限を過ぎても続く居住、そして訴訟へ

当初無償提供だった東雲住宅は、2017年3月を期限に退去を求められました。ただし、家賃を支払えば2019年3月までの居住延長が認められました。しかし、期限を過ぎても退去せず、家賃の支払いを拒否する避難者が現れ、2020年3月、福島県は4世帯に対し退去と損害賠償を求める訴訟を起こしました。これに対し、他の避難者11人も福島県を相手取り、損害賠償や居住権の確認を求める訴訟を起こすなど、事態は泥沼化していきました。

訴訟の行方と残された課題

当初提訴された4世帯のうち2世帯は敗訴し、上告するも退去を余儀なくされました。しかし、現在も8世帯が東雲住宅に居住を続けており、その多くは家賃を支払っていない状況です。福島県は、家賃滞納者への訴訟を継続していますが、裁判の長期化により賠償金額も増加の一途を辿っています。「家賃は福島県民の税金で賄われている」と嘆く県職員の声も聞こえてきます。

altalt(東雲住宅のような高層マンションでの生活は、避難者にとってどのようなものだったのでしょうか。)

14年目の真実:避難者たちの複雑な思い

都心のタワマンで暮らし続ける避難者たち。そこには、故郷を失った喪失感、生活再建への不安、そして福島県への複雑な思いが交錯しています。「住宅問題専門家」(仮名)は、「避難者たちは、単に家賃が安いから居座っているわけではない。原発事故による精神的苦痛、生活基盤の喪失、そして故郷への帰還の難しさなど、様々な要因が絡み合っている」と指摘します。14年という歳月は、避難者たちの心に深い傷跡を残し、故郷と新たな生活の狭間で揺れ動く彼らの苦悩は、今もなお続いています。この問題の解決には、双方の歩み寄り、そして丁寧な対話が必要不可欠と言えるでしょう。