ウクライナ疑惑をめぐる米上下両院による弾劾手続きで、民主党がトランプ大統領を罷免できる公算は現時点で極めて小さい。にもかかわらず、民主党が弾劾訴追にこだわるのは、約1年後に控える大統領選でトランプ氏の再選を阻止できる保証がない中、弾劾という「裏技」で政権奪還への活路を開きたい思惑が込められているためだ。
今回の疑惑に関し、今のところ可能性の高い結末は、共和党陣営が「トランプ氏が軍事支援と引き換えにウクライナ大統領に汚職捜査を要請した」との指摘は受け入れつつ、「弾劾するには値しない」と主張し、上院の弾劾裁判で同氏を無罪と認定することだ。
そうなれば、トランプ氏が「ロシア疑惑」に続きウクライナ疑惑でも潔白が証明されたとし、大統領選で民主党を「魔女狩りを主導した腐敗政党」だと猛攻撃していくのは確実だ。
民主党のペロシ下院議長が以前は弾劾に消極的だったのも、トランプ氏やその支持基盤を逆に勢いづかせるのを恐れたからだ。
それでもペロシ氏は、ウクライナ疑惑では弾劾訴追の調査を表明した。上院の弾劾裁判で罷免に要する3分の2に至らないまでも、共和党の一部の造反で過半数が賛成する形に持ち込み、大統領選に向けて「道義的勝利」を勝ち取ったと有権者に訴える構図を描いているといえる。
しかし、民主党にとって「最もトランプ氏を打倒する可能性が高い」とされるバイデン前副大統領が今回の疑惑で傷がついたのは大きな痛手となった。バイデン氏が本選に進めたとしても、トランプ氏から、今回の疑惑で名前が浮上した息子のハンター・バイデン氏の問題を繰り返し追及されるのは必至。現状では結局、「最後に笑うのはトランプ氏」という事態になりそうだ。(ワシントン 黒瀬悦成)