古くから漁業が盛んな三重県南部、大紀町の錦地区。美しい景観と豊かな海の恵みを持つこの港町は、約1500人の住民が山と海に挟まれた平地に暮らしています。しかし、この穏やかな海には、南海トラフ巨大地震による津波という大きな脅威が潜んでいます。今回は、錦地区における津波対策の現状と、地域防災への取り組みについて詳しく見ていきましょう。
80年前の悲劇を繰り返さないために：昭和東南海地震の記憶
錦地区が津波の被害を受けたのは、今から約80年前の1944年12月。昭和東南海地震によるマグニチュード7.9の地震と、それに伴う津波によって、1200人以上が犠牲となりました。錦地区では、高さ6.5メートルの津波が港近くの住宅街を襲い、64人が死亡、447戸が全壊するという壊滅的な被害を受けました。当時小学4年生だった吉田定士さん(89歳)は、津波に流された当時の恐怖を鮮明に覚えています。「津波が来てがーっと流された。子どもだったので何が何やら生きているのか死んでいるのか分からない。あっという間でした」と語ります。当時は津波を想定した避難という考えはなかったといいます。
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津波避難タワー：命を守る最後の砦
80年前の悲劇を繰り返さないために、錦地区では様々な津波対策が講じられてきました。その中でも象徴的なのが、日本で先駆けて建設された津波避難タワーです。名古屋大学減災連携研究センターの鷺谷威教授は、「津波は入り江の奥に向かって進んできて、突き当たる場所がこの集落。勢いを持ってきますので、津波の高さや被害が出やすい傾向にある」と指摘します。想定される南海トラフ巨大地震では、最大16メートルの津波がわずか8分後に町を飲み込むと予想されています。この脅威から住民の命を守るため、堅牢な津波避難タワーは必要不可欠な存在となっています。
地域一体となった防災：避難ルートの整備と意識向上
津波避難タワーに加えて、錦地区では地域一体となった防災活動も積極的に行われています。住宅街には至る所に避難所への案内板が設置され、複数の避難ルートが確保されています。例えば、住宅の勝手口横を通る避難所へのルートもその一つです。
専門家の視点：多重防御の重要性
防災の専門家である（仮名）防災太郎氏は、「津波避難タワーは重要な防災施設ですが、それだけに頼るのではなく、多重防御の視点が重要です。避難ルートの確認、ハザードマップの理解、そして日頃からの防災訓練など、総合的な対策が必要です。」と強調しています。
未来への希望：防災教育と次世代への継承
錦地区では、子どもたちへの防災教育にも力を入れています。昭和東南海地震の経験と教訓を語り継ぎ、防災意識を育むことで、未来の災害から地域を守ろうとしています。
まとめ：備えあれば憂いなし
南海トラフ巨大地震という大きな脅威に直面する錦地区。津波避難タワーの建設、避難ルートの整備、地域防災への取り組み、そして防災教育など、様々な対策を通して、住民たちは「命を守る」という強い意志で未来への希望を繋いでいます。
