2022年7月に参院選の応援演説中に安倍晋三元首相を銃撃し殺害したとして、殺人罪などで逮捕・起訴された山上徹也被告(45)の公判が10月28日、奈良地方裁判所ではじまった。この初公判で、検察側は事件が山上被告による単独犯行であり、協力者は存在しないことを立証。また、山上被告が銃をインターネットで購入しようとして詐欺被害に遭い、その後自ら銃を製造するに至った経緯も明らかにされた。この裁判は、来年1月21日の判決まで計18回の審理が予定されており、世間の注目を集めている。
3年3カ月ぶりの公の場、山上被告が認めた起訴内容
事件発生から約3年3カ月ぶりに公の場に姿を見せた山上被告は、長髪を後ろで束ね、覇気のない表情をしていた。裁判官から安倍元首相銃撃に関する起訴内容の認否を問われると、消え入るような小さな声で「すべて事実です。私がしたことに間違いありません」と述べ、自身の犯行を認めた。この自白は、長らく事件の真相解明を待っていた国民にとって、最初の重要な一歩となる。
検察側が断言する「単独犯行」、協力者の存在を否定
初公判において検察側は、本事件が山上被告の単独犯行であり、外部からの協力者は一切いないという点を強く立証した。弁護側もこれに対し反論を示すことはなかった。事件発生後、SNS上では「陰謀説」が広がり、「首謀者は別に存在する」「犯行は単独では不可能で複数犯によるもの」「政府が真実を隠蔽している」といった様々な憶測が飛び交っていたため、検察側による「単独犯」の立証は特に注目されていた。
防犯カメラ映像が捉えた事件の全貌
検察側は、「単独犯」の立証を補強するため、事件現場となった近鉄大和西大寺駅北口ロータリー付近の防犯カメラ映像を法廷で提出した。事件発生時刻は2022年7月8日午前11時31分頃とされ、カメラ映像には事件直前から直後までの状況が克明に映し出されていた。駅北口を俯瞰する位置に設置されたカメラは、ロータリーから片側1車線の道路を挟んで、安倍元首相が演説していた場所までを全て捉えていた。
午前11時28分頃に安倍元首相の演説が始まると、その約2分後、山上被告がロータリー脇の歩道から道路を横断し、道路中央付近まで進む様子が映像で確認された。山上被告は持っていたバッグから黒っぽい手製の銃を取り出し、1発目を発射。白煙が立ち上った。安倍元首相は異常を察知したかのように身をかがめる動きを見せた。
参院選応援演説中の安倍晋三元首相。事件直前の様子
そこに山上被告が2発目を発射。その直後、複数のSPと見られる人物が山上被告に飛びかかり、同時に安倍元首相の周囲の人々も彼を覆い隠すように行動した。映像には山上被告の周囲に、協力するような第三者の姿は見当たらず、また周囲のビルなどから銃が発射されたような様子も確認されなかった。検察側は、1回目の発砲時、山上被告と安倍元首相の距離は約6.9メートル、2回目の発砲時はさらに近づき約5.3メートルと、かなり近距離であったことを明らかにした。
安倍元首相銃撃事件後、SPに確保される山上徹也被告の瞬間
自製銃の背景:ネットでの詐欺被害と製造過程
公判では、山上被告が当初、インターネットを通じて銃器を購入しようとしたものの、その際に金銭をだまし取られたという背景も語られた。この詐欺被害が、彼が自ら手製の銃を製造するに至った一因であることが示唆された。
結び
山上徹也被告の初公判は、安倍元首相銃撃事件の真相解明に向けた重要な一歩となった。被告自身が犯行を認め、検察側は詳細な防犯カメラ映像と供述に基づき、事件が単独犯行であることを強く立証した。これにより、事件を巡る様々な憶測や陰謀説の払拭に繋がることが期待される。この後も計18回の審理が続き、来年1月21日には判決が下される予定であり、引き続きその行方が注視される。





