和牛の受精卵と精液の流出事件で、中国へ不正に輸出されると知りながら譲り渡したとして、家畜伝染病予防法違反幇助(ほうじょ)罪などに問われた徳島県吉野川市の元牧場経営、松平哲幸被告(70)の初公判が13日、大阪地裁(増田啓祐裁判長)で開かれ、被告は起訴内容を大筋で認めた。検察側は「日本の畜産品の信頼を失墜させる悪質な行為」として懲役1年2月、追徴金473万円を求刑し、即日結審した。判決は12月25日。
検察側の冒頭陳述などによると、被告は将来的な売買目的のほか、口蹄(こうてい)疫などの感染症が流行する事態を想定し、受精卵や精液を保管。こうした遺伝情報の在庫を多数抱えるようになったが、中国人の牧場関係者から依頼を受けた日本人の男=同法違反罪などで有罪判決確定=の話に乗り、受精卵などを譲り渡した。
被告は被告人質問で、依頼元が「和牛であれば何でもいい」と要望していると知り、「国内では買い手のない古い受精卵や精液を通常より安い価格で譲り渡した」と明かした。また「譲り渡したものが百パーセント中国へ行くと知っていたわけではない」と釈明したが、「同業者に迷惑をかけ申し訳ない」と謝罪した。
検察側は、今回の事件以外でも過去に複数回の密輸があり、実際に中国に和牛の遺伝情報が流出したと指摘。「流出元となった被告の責任は重大だ」と主張した。一方、弁護側は「自主的に牧場経営を廃業するなど反省している」として執行猶予付きの判決を求めた。
起訴状によると昨年6月、氏名不詳者から473万円を受け取り、保管用ストローに注入した受精卵と精液計365本を指示役の男に譲り渡し、翌29日に運搬役の男がフェリーで中国へ不正に輸出することを幇助したとしている。