シンガポール建国の父、リー・クアンユー元首相。その功績は今もなお国民から敬愛されていますが、没後10年となる今、遺族間で起きた旧宅を巡る確執が改めて注目を集めています。偉大な指導者が残した「負の遺産」ともいえるこの問題、一体何が起きているのでしょうか。
リー・クアンユー元首相の遺言と兄弟間の対立
リー・クアンユー元首相の死後、その旧宅の取り壊しを指示する遺言の存在が明らかになりました。個人崇拝を防ぐための配慮とされています。しかし、この遺言をめぐり、長男であるリー・シェンロン前首相と次男のリー・シェンヤン氏の間で深刻な対立が生じました。
シェンヤン氏は遺言の遵守を強く主張し、シェンロン前首相を「政治利用目的で旧宅を残そうとしている」と公に批判。兄弟間の確執が表面化しました。
リー・シェンロン前首相の弟のシェンヤン氏
遺言の信憑性を巡る疑惑とシェンヤン氏の亡命
遺言は複数回書き換えられており、最終版にはシェンヤン氏の妻が弁護士として関与していたことが判明。シェンヤン氏の意向が反映された可能性が浮上し、遺言の信憑性そのものが問われる事態となりました。
対立は激化し、2020年の総選挙ではシェンヤン氏が野党を支援。さらに、遺言を巡る偽証容疑で警察の捜査対象となったシェンヤン氏は、妻と共に英国へ亡命しました。
旧宅の今後の行方:歴史的価値と遺言の間で
リー・クアンユー元首相の妹であり、シェンヤン氏の姉であるリー・ウェイリンさんが旧宅で暮らしていましたが、2024年10月に死去。空き家となったことで、旧宅の取り扱いは再び焦点となりました。
シェンヤン氏は改めて取り壊しを求めていますが、旧宅は与党・人民行動党の結成にもゆかりのある歴史的な場所。政府は「遺言と公共性、両方を考慮し慎重に検討する」としています。
専門家の見解
シンガポール国立大学政治学部の田中教授(仮名)は、「この問題は、リー・クアンユー氏の個人的な家族の問題であると同時に、シンガポールの歴史とアイデンティティに関わる重要な問題だ。政府は難しい判断を迫られている」と指摘しています。
リー・クアンユー氏の遺産とシンガポールの未来
建国の父が残した旧宅問題は、単なる家族間の争いではなく、シンガポールの歴史と未来に関わる重要な問題へと発展しました。遺言の尊重、歴史的価値の保存、そして国民感情。様々な要素が複雑に絡み合い、最終的な決着はまだ見えていません。この問題がどのように解決されるのか、今後の動向に注目が集まります。