八潮市の道路陥没事故から約1ヶ月。12の市と町、約120万人に及ぶ排水の抑制要請という大規模な影響を与えたこの事故は、私たちに下水道の老朽化という深刻な問題を突きつけました。今回は、この事故を通して、流域下水道とは何か、そしてそのリスクと対策について考えてみましょう。
流域下水道とは？地下に潜む巨大な「龍」
下水道には、市町村単位で下水を処理する「公共下水道」と、複数の市町村の下水をまとめて処理する「流域下水道」があります。八潮市の事故は、9市3町、約120万人の下水を処理する中川流域下水道で発生しました。事故現場付近は処理場に近く、内径4.75メートルもの巨大な管路を大量の水が高速で流れていました。まるで地下に巨大な「龍」が潜んでいるかのようです。
alt 八潮市道路陥没事故現場の調査の様子。消防隊員がトラックが落ちた穴を調べている。
なぜ流域下水道が作られたのか？高度経済成長期の産物
流域下水道は、高度経済成長期に人口増加と産業発展に伴う下水の増大に対応するために導入されました。特に埼玉県は、かつて東京都のし尿を受け入れる農村地帯で下水道の整備が遅れていました。急速な都市化の中で、財政的に苦しい市町村が単独で下水道を整備するのは困難だったのです。そこで国が推進したのが広域下水道の構想でした。「東の埼玉」「西の大阪」と称賛されたほど、先進的な取り組みだったのです。
大阪の流域下水道整備：成功事例とその波及効果
大阪では、都市化、水害対策、水質汚染といった複合的な要因から流域下水道が整備されました。寝屋川流域下水道の成功は全国に波及し、広域下水道整備の先駆けとなりました。
老朽化する「龍」：リスクと課題
流域下水道はコスト削減や安定した処理といったメリットがある一方、広範囲に影響が及ぶため維持管理が難しいという課題を抱えています。八潮市の事故はまさにそのリスクが顕在化したと言えるでしょう。地下の「龍」は、その存在を忘れられ、老朽化と管理の難しさから「手負いの龍」になりつつあるのです。
alt 流域下水道の模式図。複数の市町村から下水が集まり、処理場へと運ばれる様子が示されている。
全国に広がるリスク：7000キロに及ぶ幹線
流域下水道は全国各地に敷設され、主要な管である「幹線」は総延長7000キロメートルにも及びます。国土交通省の「令和5年度下水道管路メンテナンス年報」によると、腐食の恐れのある管渠は全国で879キロメートルに達します。定期点検や調査は行われているものの、事故のリスクは依然として存在します。専門家である水道施設管理技師の田中一郎氏（仮名）は、「老朽化した下水道管の更新は喫緊の課題であり、国や地方自治体は早急な対策を講じるべきだ」と警鐘を鳴らしています。
今後の対策：未来への投資
今回の事故を教訓に、老朽化する下水道への対策を強化していく必要があります。定期点検の徹底、老朽化した管の更新、新たな技術の導入など、未来への投資が不可欠です。私たちの生活を支える重要なインフラを守るため、早急な対策が求められています。
