秋の台風15号、19号、21号の3つの台風で大きな被害を受けた千葉県の房総半島南部は、傷痕が深く、なかなか復旧が進まない。屋根が壊れ、いまだにブルーシートに覆われたままの家々。深刻な農業被害…。「もう、どうしたら…」。被災者らは途方に暮れている。(白杉有紗、橘川玲奈)
ブルーシートに覆われた屋根が目立つ館山市の布良(めら)地区に13日、また、強い雨が打ちつけた。地区に住む島田礼子さん(79)の自宅の屋根にも大きなブルーシートが掛けられたままで、室内には雨漏りの音がポトポトと響き渡る。
島田さんは「この地区からブルーシートが完全に無くなるまでには4~5年かかると聞いた。途方に暮れる」とこぼす。
関東大震災も持ちこたえたという自宅の屋根は15号の風で飛ばされた。しっかりとブルーシートを止めたはずだったが、19号ではまたはがれた。これまでに4回もシートをかけ直した。
19号の時、島田さんはシートがガザガザと音を立てて落ちるのが怖く、浴槽の中でヘルメットをかぶって過ごした。「今でも風や雨が降るとパニックになる」と訴える。
「60年ビワをやっているけど、こんな大きな被害はないね」。南房総市のビワ農家、川名忠男さん(78)は、倒れたビワの木を見ながらため息をついた。
同市や館山市などの県南部は全国2位の収穫量を誇るビワの産地だ。「房州びわ」として知られ、毎年6月には、選ばれた最上のビワを皇室にも献上。川名さんの農園で採れたビワも今年、皇后さまにお届けしたという。
9月に襲った台風15号は県南部のビワ農園にも甚大な被害を及ぼした。房州枇杷(びわ)組合連合会によると、露地栽培のビワの木が倒れたり、ハウス栽培用のハウスのビニールが破れたりする被害が全体の6~7割でみられ、被害額は概算で5億8千万円に達するという。
再建にも時間を要する。組合によると、被害の少ない木でも再び大きな実がつくまでに約5年かかる。苗から育て直すと約10年かかるという。
川名さんの農園では、露地栽培のビワの木80本中約15本に被害が及んだ。苗を新たに植えることも考えているが、不安は尽きない。「後継者はいないし、どうしたことか」。川名さんは途方に暮れた。