歯科医院の常識を覆す成功事例:予防重視で年商8.3億円の秘訣

「ママ、まだかなぁ〜?」 子どもが尋ねると「あとちょっとだよ」と笑って我が子を母親があやす。通常、緊張感が漂う歯科医院の待合室とは異なり、あちこちからにぎやかな声が聞こえてくる場所がある。そこは香川県高松市にある「しん治歯科医院」だ。人口約1万7000人の旧牟礼町という地方に位置しながら、デンタルチェア21台、歯科医師9名、歯科衛生士31名という大規模な医療体制を誇り、従来の歯科医院の概念を覆す成功を収めている。

しん治歯科医院の明るい待合室で遊ぶ子どもたちと見守る母親しん治歯科医院の明るい待合室で遊ぶ子どもたちと見守る母親

地方から生まれた驚異のビジネスモデル

中心地の高松駅から電車でおよそ30分の場所にあるしん治歯科医院の周辺は、のどかな風景が広がる。しかし、午後ともなると30台ほど停められる大型駐車場が満車になることも珍しくない。老若男女問わず大勢の患者が訪れ、その牧歌的な雰囲気は、一般的な医療機関のイメージとはかけ離れている。

この歯科医院の成功事例をさらに際立たせるのは、その驚異的な年商だ。単院にもかかわらず、その額はなんと8.3億円に達する。厚生労働省の2023年医療経済実態調査によれば、単院の歯科医院の平均年商はおよそ4700万円。この数字と比較すれば、しん治歯科医院がいかに突出した経営モデルを確立しているかは明らかである。なぜ、人口の少ないエリアで、これほどまでの収益を上げることができるのだろうか。

「嫌われる場所」から「進んで通う場所」へ:予防歯科の力

しん治歯科医院を開業した髙橋伸治理事長は、その理由を次のように語る。「歯科医院は、歯が悪くなって仕方なく行く場所、言わば『嫌われる対象』になりがちです。私はそこに疑問を覚え、患者さんの『もっと健康になりたい』という想いを叶えられる場所にしたいと考えました」。

このビジョンに基づき、同院が重視したのが「予防歯科」である。多くのデンタルクリニック治療をメインにする中、しん治歯科医院は予防に重点を置く新しいスタイルを追求した。年商8.3億円の内訳は、治療が3.3億円、予防が2億円、そして訪問歯科が3億円。収益の半分以上を予防と訪問医療で計上しているのだ。この戦略的な転換こそが、患者が「仕方なく歯を治しに来る」のではなく、「歯の健康を求めて進んで通う場所」へと医院の役割を変え、明るく活気ある雰囲気を生み出し、結果として圧倒的な業績に繋がっているのである。

しん治歯科医院の広々とした院内で予防処置を受ける多くの患者と多数の歯科衛生士しん治歯科医院の広々とした院内で予防処置を受ける多くの患者と多数の歯科衛生士

しん治歯科医院の事例は、地方の地域医療においても、患者のニーズに応え、サービス提供のあり方を変革することで、従来の枠を超えたヘルスケアビジネスの成功が可能であることを示している。歯の健康を通じて人々の生活の質を高めるという、明確な健康志向の提供が、結果的に持続可能な成長と高い医療経済効果を生み出していると言えるだろう。

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