昭和史における謎の一つともいわれる「日本の対米開戦」。
なぜ、当時の日本人は冷静な判断を失い、無謀な戦争へと突入したのか。「その陰には、実は巧妙な煽動工作があったことが、ヴェノナ文書や戦後の尋問記録などから明らかになりつつある」と語るのが、『保守の本懐』を上梓したばかりの作家で経済評論家の上念司氏だ。
日米両国を争わせ、資本主義国家を弱体化させる目的で仕掛けられたという対米開戦の黒幕に迫る。
(本記事は、『保守の本懐』より一部を抜粋し、再編集しています)
日本の対米開戦を共産党主義者たちが願った理由
日本の対米開戦を徹底的に煽ったのは誰か? それは共産主義者です。
まさに保守思想の宿敵、設計主義の一形態である共産主義がこの謀略を仕掛けたことは間違いありません。
ただし、陰謀論だと批判されないようにあえて付け加えますが、日本はソ連の命令で戦争をしたわけではありませんし、当時の国民の声に押された政府が主体的に対米開戦を決断したことは間違いありません。
ただ、問題はそこではないのです。共産主義者たちが経済的に困窮した国民をデマと陰謀論で煽り、対米開戦へと仕向ける努力をしていた。それが事実であるということです。
ソ連および共産主義者たちは日本とアメリカ双方の政治・外交の中枢にスパイを送り込み、日米両国の対立を煽ることで、最終的に戦争を引き起こすよう仕向けました。その目的は、資本主義国家同士を戦わせることで双方を弱体化させ、共産主義革命の拡大を狙うことにありました。
この主張の裏付けとして重要な証拠とされるのが、ヴェノナ文書や戦後の尋問記録であり、これらの記録によりソ連、共産主義インターナショナル(コミンテルンおよび後継組織のコミンフォルムも含む)のスパイ活動や情報操作の一端が明らかになっています。
でっち上げられた「世界征服」の文書
例えば、「田中上奏文」という有名な偽書は、1927年に日本の首相・田中義一が昭和天皇に提出したとされる偽文書で、アジア侵略と世界征服を目指す日本の戦略を明らかにしたとされる内容になっています。
その内容を要約すると、「日本はまず中国を征服し、アジアを制覇する。これを基盤として、世界征服を目指す」という荒唐無稽なものです。その段階は以下の通りです。
・中国侵略:満洲・モンゴルを起点として中国を支配する。
・アジア支配:中国を足場に、東南アジアやインド、さらには西洋の植民地を制圧。
・最終的には西洋列強(アメリカやイギリスなど)との戦争を通じて世界を支配する。
これらの日本の侵略行為は、自国の繁栄とアジア全体の解放のためであると主張し、文書のスタイルは、田中義一首相が昭和天皇に直接報告する形式で書かれています。
もちろん、こんな上奏は行われていないし、この文書自体がでっち上げのデタラメです。しかし、このプロパガンダを真に受けさせるような悪手を日本は打ち続けてしまいました。それが諸外国の誤解を招きドツボにハマる。まさに国難でした。