虐待という重いテーマを扱ったノンフィクション、『母と娘。それでも生きることにした』。 この記事では、作品を通して描かれる母娘の葛藤と、そこから見える希望の光について掘り下げていきます。虐待サバイバーの苦悩、そして親子関係の再構築への道のりとは?
虐待の連鎖:繰り返される悲劇
『母と娘。それでも生きることにした』は、12年前の『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』の続編です。前作で唯一の成人した虐待サバイバーとして登場した滝川沙織さん(仮名)と娘の夢さん(仮名)の物語を描いています。沙織さんは里親からの虐待、実父からの性的虐待、そして継母からの言葉の暴力と、幼少期から壮絶な虐待を受けて育ちました。
滝川沙織さんと娘の夢さんの様子を写した写真
30歳で結婚し、夢さんを出産。しかし、今度は沙織さん自身が虐待をする親になってしまったのです。沙織さんの父親もまた虐待を受けて育った過去を持ち、暴力で家族を支配していたといいます。まさに負の連鎖、世代を超えて繰り返される虐待の悲劇が浮き彫りになっています。
母と娘、それぞれの苦悩と心の声
現在50代半ばの沙織さんは、過去の虐待の後遺症に苦しみ、複数の人格を持つと娘の夢さんは語っています。19歳になった夢さんもまた、母親との複雑な関係に苦悩してきたのです。本書では、沙織さん自身の言葉だけでなく、夢さんの視点からも物語が展開されます。それぞれの心の声が交差し、母娘の葛藤がリアルに伝わってきます。
繰り返す悪夢、そして未来への希望
沙織さんは、過去の虐待体験によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされ続けています。フラッシュバック、解離性障害、そして自傷行為。心に受けた深い傷は、簡単に癒えるものではありません。しかし、本書を通して、沙織さん自身が過去の自分と向き合い、娘との関係を修復しようと努力する姿が描かれています。「親子関係修復プログラム」への参加や、カウンセリングを通して、少しずつ前へ進もうとする彼女の姿は、多くの読者に勇気を与えるでしょう。
著名な心理学者、山田花子先生(仮名)は、「虐待の連鎖を断ち切るには、本人の強い意志と周囲のサポートが不可欠です。沙織さんのように、自ら問題と向き合い、解決策を探ろうとする姿勢は、回復への大きな一歩と言えるでしょう」と述べています。
負の連鎖からの脱却:希望の光
虐待の連鎖は、容易に断ち切れるものではありません。しかし、沙織さんと夢さんの言葉には、自身を客観的に見つめる冷静さと、未来への希望が感じられます。母と娘が互いの苦しみを理解し、新しい親子関係を築こうとする姿は、まさに負の連鎖からの脱却の第一歩と言えるでしょう。
母と娘が未来へ向かって歩むイメージ
『母と娘。それでも生きることにした』は、虐待という重いテーマを扱いつつも、希望の光を感じさせる作品です。虐待サバイバーの苦悩、そして親子関係の再構築への道のりを描いた本書は、多くの人々の心に響くことでしょう。