フジテレビがどうして地下鉄サリン事件の実録ドラマをやろうと思ったんだろう。「これは何を目指したドラマなのか」がよくわからなかった。
「事件当時の営団地下鉄の無線音声を独自入手!」したそうで、その「独自入手」の音声は確かに生々しい。パニック状態の現場の中、やけにテンションの低い、のんびりしたようなやる気のない受け答えの音声なのがかえってリアルで、そこに当時のVTRや、露木アナや堺アナが出てくる臨時ニュース映像がかぶさり、あの時のいろいろを思い出し、恐怖のあまり吐き気すらしてくる。
が、そこからドラマパートに入るといきなり微妙な気持ちになる。
正体不明の液体(サリン)をめぐる、地下鉄の運転手や駅員、救急隊員、医師、液体を分析する研究所員、などのそれぞれが描かれる。防護服に身を固めた隊員がサリン入りの袋を持って外に出て、平服の、マスクすらしてない人に渡してたりする。今なら「ありえん!」行動だが、サリンの毒性がわからなかった当時、未曾有の混乱で現場ではそんなことが山ほど起こってたに違いない。そんな悲劇をドラマとして描き出したい……んだろうか。単に「脚本がそのことに気づいてなくてマヌケなことになっている」みたいに見えるんだ。ツッコミ待ちみたいな。これは演出が下手だと思う。
ドラマとしては、サリン中毒の患者が担ぎ込まれた救命救急センターの医師が主人公、ということになっているが、この先生も、大量のサリン中毒の人たちが病院の廊下にまであふれかえっている中で、「荒野で佇むオレ……」みたいな雰囲気で突っ立ってたりして。これはあれか? 無線音声における「パニックの中で妙にローテンションな受け答え」のリアルを、ドラマの中で追求したとか?……そうは見えなかったよ……場違いにかっこつけてるようにしか。そもそも、このドラマパートって、綿密な取材や資料をもとにつくられたもの(たとえば終戦記念日とかにNHKでやる、終戦の御前会議ドラマみたいな)なのだろうか? どうもそうは感じられない。じゃあことさらドラマチックに盛り上げてるかというとそんなこともなく(さすがにこの事件をネタにしてそういうことはできなかっただろうが)、静かに大きな教訓を得られる作品になってたかといえばそうでもなく、はんぱな感じしかしない。これなら「音声」と「当時の映像」だけで硬派のドキュメンタリー番組にすればよかったのに。今のフジテレビこそ、視聴率気にしないでゴールデンタイムに超硬いドキュメンタリーつくる時だろうに。つい「この音声素材、黙ってNHKに渡してくれてれば」と思ってしまった。Nスペで見たかった、この題材なら……。
INFORMATIONアイコン『1995〜地下鉄サリン事件30年 救命現場の声〜』
フジテレビ 特別番組
https://www.fujitv.co.jp/1995/
青木 るえか/週刊文春 2025年4月10日号