NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第14回「蔦重瀬川夫婦道中」で、瀬以/瀬川(小芝風花)は蔦重(横浜流星)と見た“夢”のため、そして蔦重を愛するがために吉原を去っていった。初回から放送のたびに小芝の演技力が話題となっていたが、喜びや悲しみ、そして瀬川の“最後”まで本作を花のように彩っていた。
鳥山検校(市原隼人)に身請けされて以来、2度と蔦重と会うことはできないと覚悟をしていた瀬以。しかし鳥山が捕えられることにより、蔦重と再会することが叶うことに。「蔦重と2人、ふとんで横になりながら夢を語っているシーンは、まさにあり得ないと思っていた奇跡が起きた瞬間。おそらく瀬川の人生の中で一番幸せな時間だったでしょうね」と小芝が語る通り、これまでの抑圧から一気に解放される嬉しさが滲んでいた。(※1)
芝居の緩急もあるが、一連の喜びっぷりはやはり小芝の天真爛漫な持ち味だ。市原は「瀬川役の小芝(風花)さんは、とにかく笑顔がすてきで、周りを花畑にしてくださいます。まさに瀬川のように、蝶が舞うときに粉を落とすような、人々を魅了する華を持っていらっしゃる方だという印象を受けました」というように評価している。まさに『べらぼう』における“華”であった。(※2)
だからこそ、哀愁漂わせる姿との落差が刺さる。誰かに「離れろ」と言われたわけでもなく、自分の大切なものを守るために自ら吉原を離れるラストシーン。「10年以上思い続けた人と一緒になるための荷造りが、離れるための荷造りに変わっていくシーンは演じていても本当に苦しかったです」と小芝が語るこのときの撮影では、「カット」の声がかかったあとも涙が止まらなかったのだという。(※1)
そうした感情の機微を語気にこめるのが小芝は非常に上手い。わずかな息遣いから、間の取り方、抑揚、音の高低まで巧みにコントロールしており、別れの手紙の朗読シーンは何度観ても心を揺さぶられる名演だ。
史実では、瀬川は伝説の花魁で不幸な人生を送ったとされている人物だが、本作では絶望だけではなく、彼女が確かに希望を抱いて生きていたことが描かれた。『べらぼう』が描き続けてきた“夢と現実”を象徴するキャラクターであるものの、女郎の闇に堕ちずに常に芯をもって生きる様、そして蔦重との幸せなひとときを噛み締める姿は、まるで「光」を体現しているようでもあった。“親なし、金なし、画才なし”だった蔦重が“何か”を手にいれるまでが『べらぼう』の第1部だったとすると、その中心で光を放ち続けていたのが瀬川であり、小芝だったのだ。
同じく時代劇ものでは主演を務めた『大奥』(フジテレビ系)が印象深い。大奥内の壮絶ないじめに屈せず、将軍の妻として真っ直ぐな心を示し続けた倫子を演じ、作品を牽引していた。そんな絶品の演技を見せた『大奥』に続いて『べらぼう』も小芝の代表作に加わったことは間違いない。NHK BS時代劇『あきない世傳 金と銀2』の放送も開始されており、『べらぼう』とはまた一味違う小芝の演技を堪能できる。近年では数々の作品で主演級のポジションを務めているが、今回の大河出演で小芝のイメージに“風格”が漂うことにより、演者としてさらに高みへと登ったと言える。
参照
※1. https://www.nhk.jp/p/berabou/ts/42QY57MX24/blog/bl/pG3k57WNaG/bp/pVdw5J1xO9/
※2. https://www.nhk.jp/p/berabou/ts/42QY57MX24/blog/bl/pG3k57WNaG/bp/pAnLzr5G06/
間瀬佑一