昭和の名優・根津甚八さんとアパレルブランド広報として働く仁香さんが出会ったのは、知人のパーティ。3度目のデートで結婚を意識したふたりですが、結婚後の束の間の幸せと、長く続く闘病生活での心境を明かしてくれました。(全3回中の1回)
■「うちでパスタを食べないか?」と誘われて
── 昭和を代表する俳優だった故・根津甚八さんの妻であり、現在は2010年に立ち上げたアクセサリーブランドのジュエリープロデューサーとして活躍する根津仁香さん。おふたりが結婚されたのは1994年。甚八さんが45歳、仁香さんが30歳のときでした。出会いのなれそめは、知り合いのホームパーティだったそうですね。
根津さん:美大を卒業し、海外アパレルブランドの広報として働いていた私が甚八さんと出会ったのは、仕事の関係で知り合った映画監督・林海象さんの忘年会でした。最初の印象は「有名な俳優さんだと聞いているけれど、あんがい地味な人だな」。手持ちぶさたな様子で中庭にポツンとたたずむ姿がいまも印象に残っています。ですが、話をしてみると、同じ誕生日、お互い4人きょうだいの3番目、兄が医者など、意外な共通点が多かったんです。しかも、私が生まれ育ったのは、東京・文京区にある「根津駅」の近く。なんだか不思議な縁を感じました。
初デートは彼の自宅でした。外だと週刊誌に撮られてしまうし、落ち着かないからと「うちでパスタを食べないか?俺が作るから」と誘われて。彼はひとり暮らしが長かったので、料理上手でペペロンチーノを手際よく作り、カクテルも振る舞ってくれました。交際期間は約1年でしたが、3度目のデートのときにはすでにお互い結婚を意識していましたね。
── 甚八さんみずから手料理でもてなすなんて素敵ですね。お互いどういったところにひかれたのでしょうか?
根津さん:不器用で寡黙な彼とおしゃべりで社交的な私では、性格的には真逆ですが、むしろそれが新鮮でよかったのでしょうね。もともと芸能界に関心がないうえ、15歳の年齢差があるので、じつは彼の作品をちゃんと見たことがなかったんです。ですから先入観がなく、ほかの人たちのようにチヤホヤしたりしませんでした。そんなフランクな態度が彼にとっては気楽だったようで、「キミといると素の自分でいられていい」とよく言っていましたね。