佐世保市の「引き出し収集」:知られざる過酷なゴミ回収の現場と未来への課題

長崎県佐世保市、急峻な地形に立ち並ぶ住宅地。そこでは、一般的なゴミ収集車が入れない場所でのゴミ回収、通称「引き出し収集」が行われています。今回は、その現場を実際に体験し、知られざる苦労と工夫、そして未来への課題を探ります。

急峻な地形が生んだ独自のゴミ回収システム

佐世保市は、かつて基地や造船業で栄え、人口が急増しました。その結果、佐世保湾周辺の傾斜地にも住宅地が拡大。狭い坂道や階段が住宅開発の中心となり、通常のゴミ収集車ではアクセス不可能な地域が増加しました。

そこで生まれたのが「引き出し収集」。住民が傾斜地に設置されたゴミステーションに出したゴミを、清掃員が人力で坂道や階段を下り、収集車が停車できる道路まで運ぶという、まさに体力勝負の作業です。

佐世保市の斜面住宅地。収集車の入れない場所からゴミを集める「引き出し収集」が行われている。佐世保市の斜面住宅地。収集車の入れない場所からゴミを集める「引き出し収集」が行われている。

独自に開発された道具とノウハウ

佐世保市では、道路沿いのゴミ収集は民間委託されていますが、この「引き出し収集」は市の清掃職員が担当しています。現在、4トントラックと軽ダンプの運転士2名、作業員6名の計8名で1班を構成し、3班体制で758カ所のゴミステーションを巡回しています。

この過酷な作業を少しでも効率的に行うため、佐世保市では独自の道具とノウハウを開発してきました。「スラセ(階段用滑り台)」、「鉄ベアリング(平地用車輪付き箱)」、「ゴムベアリング」といった3種類の専用箱を使い分け、ゴミの量に応じてベニヤ板で容量を調整するなど、現場の状況に合わせた柔軟な対応が求められます。これらの「置き箱」は市が用意し、環境センターで定期的にメンテナンスを行っています。

引き出し収集の現場を体験

実際に「引き出し収集」を体験してみると、想像をはるかに超える重労働でした。箱と枠板を担いで急な坂道や階段を上り下りするのは、かなりの体力が必要です。「高齢化が進む中、この作業を誰が担っていくのか?」という深刻な課題を肌で感じました。

自治体専門のコンサルタント、山田一郎氏(仮名)は、「高齢化社会における人材確保は、佐世保市だけでなく、多くの自治体が抱える共通の課題です。AIやロボット技術の活用など、抜本的な改革が必要となるでしょう」と指摘しています。

未来への展望:持続可能なゴミ回収を目指して

佐世保市の「引き出し収集」は、急峻な地形という地域特性が生んだ、まさに住民の生活を支える重要なライフラインです。しかし、高齢化や人手不足といった課題は、このシステムの持続可能性を揺るがしています。

テクノロジーの進化や新たな仕組みの導入など、未来を見据えた対策が求められています。同時に、市民一人ひとりがゴミ減量への意識を高め、協力していくことも重要です。美しい街並みを未来へ繋ぐために、私たちは何ができるのか、改めて考えさせられる経験となりました。