安倍晋三首相が達成した前人未到の長期政権の背景には、官僚出身で首相への忠誠心が厚い「官邸官僚」の存在がある。官邸主導の政策遂行を支え、閣僚辞任など数々の“ピンチ”をしのいできたのは、首相の懐刀といわれる経済産業省出身の今井尚哉(たかや)首相補佐官と内閣情報官から転身した警察庁出身の北村滋国家安全保障局長。各省庁事務次官より年長で警察庁出身の杉田和博官房副長官が霞が関の動きにも目配りしてきた。(永原慎吾)
今井氏は第1次政権で首相秘書官を務め、平成24年12月の第2次政権発足に伴って資源エネルギー庁次長から政務秘書官に起用された。首相の看板政策「1億総活躍社会」を発案し、景気動向を見極めて2度の消費税増税を後押しした。政府関係者は「今井氏は社会保障改革を首相のレガシー(遺産)にするつもりだ」と話す。今年9月には秘書官と兼務し、政策企画の総括を担当する首相補佐官の肩書を持つ。経産省時代からの海外要人との人脈をフル回転し、外交でも本格的に首相をサポートする。
今井氏と二枚看板で外交を担う北村氏と首相の交流は古く、警視庁本富士署長時代に首相の父、安倍晋太郎元外相が管内の病院に入院していた縁で知り合った。旧民主党政権下の23年に就任した内閣情報官を第2次政権発足後も続投し、今年9月には外交の司令塔である国家安全保障局長に就任。米中央情報局(CIA)出身のポンペオ国務長官ら各国要人とのパイプを武器に、北朝鮮による拉致問題や北方領土問題の解決に挑む。
官邸が高い危機管理力を示したのは4月30日の天皇陛下(現上皇さま)のご譲位に伴う皇位継承行事だ。平成28年8月に上皇さまが譲位の意思を表明後、憲法との整合性を維持しつつ、広く国民の理解を得るため、有識者会議による論点整理や万全なテロ対策で一連の行事を成功に導いたのは危機管理の実務に精通する杉田氏の差配が大きい。
一方で、懸念材料もある。補佐官として政策全般で発言力が高まった今井氏と、新元号発表で知名度を上げて自信を深め、国土交通省出身の和泉洋人首相補佐官を重用する菅義偉(すが・よしひで)官房長官は距離を置く。警察庁に外交の主要ポストを奪われた外務省は、北村氏起用への不満が根強い。今後、具体的な成果を示せなければ、政権内のパワーバランスが変化し、首相の足かせになる恐れもある。
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