韓国の畜産農場経営者、外国人労働者への暴行・賃金未払いで送検:劣悪な労働環境の実態

外国人労働者に対する深刻な人権侵害が、韓国全羅南道霊岩(ヨンアム)の畜産農場で発覚しました。農場経営者の男が、ネパール人労働者を含む外国人労働者に対し、常習的な暴行と賃金未払いを繰り返していたとして、韓国当局に送検されました。この記事では、事件の詳細と背景、そして外国人労働者が直面する厳しい現実について掘り下げていきます。

常習的な暴行:防犯カメラの死角で繰り返される暴力

事件の発端は、今年2月にネパール人労働者Bさん(27歳)が寮で自殺を図ったことでした。その後、移住労働者人権団体が「職場内いじめ」の可能性を指摘し、真相究明を求めた結果、労働当局が捜査に乗り出しました。

捜査の結果、農場経営者のA(43歳)は、昨年6月から今年2月にかけて、Bさんを含む外国人労働者10人に対し、常習的に暴行を加えていたことが明らかになりました。Aは、農場事務室内の防犯カメラの死角地帯で、ボードマーカーやボールペンで労働者の腹部やわき腹を刺すなどの暴行を繰り返していたのです。また、気に入らないことがあると平手で頬や頭を殴ったり、夜中にトイレに閉じ込めることもあったといいます。

alt 全南警察庁前で記者会見を開き、移住労働者いじめ疑惑に対する徹底した捜査を求める人権団体alt 全南警察庁前で記者会見を開き、移住労働者いじめ疑惑に対する徹底した捜査を求める人権団体

賃金未払い:2億6000万ウォンもの未払い賃金

Aは暴行だけでなく、賃金の未払いも常習的に行っていました。2022年から最近まで、合計62人の外国人労働者に対し、2億6000万ウォン(約2600万円)もの退職金と手当てを支払っていなかったのです。中には、最低賃金にも満たない月給しか支払われていなかったり、年次休暇未使用や夜間勤務手当が未払いのままの労働者もいたといいます。

韓国の有名シェフ、イ・ヨンボク氏(仮名)は、「外国人労働者は、言葉の壁やビザの問題などから、泣き寝入りしてしまうケースが多い。このような悪質な搾取は絶対に許されるべきではない」と語っています。

言葉の壁:被害を訴えられない外国人労働者たち

Aの農場で働いていた外国人労働者の多くは、ネパールやベトナムなどからの出身者でした。言葉の壁やビザの問題などから、被害を訴えられないケースが多く、Aの暴行は長期間にわたって見過ごされてきたのです。

隠蔽工作:示談で事件をもみ消そうとする経営者

Aは、過去にもネパール人労働者Cさんの頬を殴り、傷害を負わせたことがありました。Cさんは、その際に頭を金属製の扉の枠にぶつけて病院で治療を受けました。しかしAは、Cさんに「他の事業場に移してやる」と持ちかけ、示談に応じるよう説得。自害で怪我をしたように装って合意書に署名させ、「民事・刑事上の責任を問わない」という内容を盛り込ませていたのです。

捜査の進展と今後の課題

Aは取り調べに対し、「外国人労働者が働きに来るとすぐに、もっと良い職場に移ろうとして仕事を一生懸命しないので殴った」などと供述し、多くの容疑を認めています。労働当局は、Aを勤労基準法、最低賃金法違反などの容疑で検察に送検しました。

今回の事件は、外国人労働者が置かれている劣悪な労働環境を改めて浮き彫りにしました。労働当局は、「劣悪な境遇にある外国人労働者に対する暴行と賃金搾取事例が再発しないように監督を強化し、制度改善も推進していく」としています。外国人労働者の権利保護に向けた取り組みが、今後ますます重要になってくるでしょう。