建築家の重松象平氏は、九州大学BeCATのセンター長として研究・教育拠点の運営を担ってきた教育者の顔を持つ。一方、2023年開業の「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の設計を担当するなど建築業界の第一線で活躍中だ。自身の活動を通じて体現してきた“建築家が本来あるべき姿”とは。重松氏が語った。
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牡蠣殻を建材に活用したい
私が学生だった頃は、実際のプロジェクトに関わることができる機会といえば、建築設計事務所でのアルバイトに限られていました。しかし、携わるというより手伝うという感覚の方が強く、設計スキルや模型の作り方は覚えることができても、自らイニシアティブを取ることは当然ながらできません。こうした経験から、今の学生には、なるべく早い段階で実社会と接する機会を作りたいと考えています。
しかし、そもそも建築家というのは、元々イニシアティブを取る機会が非常に少ない職業です。クライアントの発注ありきの職業なので、建築家自身が起業家的精神を持って自ら事業を計画し、設計もやることは、そう多くない。当然、大学でもイニシアティブを取るための自発的な教育はほとんど行われていません。しかし私は、世の中の課題が多様化する中で、建築がそれらの課題を解決し、環境や経済など社会全体に良い影響を及ぼす可能性は大きくなっていくと考えています。
BeCATでは現在、牡蠣の殻を活用した建材づくりに着手しています。糸島にはたくさんの牡蠣小屋がありますが、そこで捨てられる大量の牡蠣の殻が産業廃棄物として問題になっています。地域にこうした課題があると知って、我々と学生たちは牡蠣の殻を建材に活用できないか、地元の建材メーカーに話を持って行きました。協議を重ねながら、セメントと牡蠣の殻を混ぜ合わせた建材用タイルを開発し、現在、商品化を目指し試験を重ねています。
このように、建築家はクライアントからの依頼を待つだけでなく、自ら課題を発見し、それを解決するために技術を活用することが可能です。たとえ社会的な大きな課題でなくても、例えば日差しが強すぎる住宅の問題を、環境シミュレーションを用いて解決することもできます。建築家の可能性は非常に大きく、社会に貢献できるという認識を、学生自身が早期に身につけ、また社会に理解してもらうことで、従来の「箱物を作るだけの建築家」というイメージが変わっていくのではないかと考えています。