「並ぶ万博」でも整然と行列 日本の国民性に世界が注目 大阪公立大・橋爪紳也特別教授 昭和100年 輝く関西に向けて


その風景を見て、2010年に開催された上海世界博覧会の時を思い出した。上海でも開幕時には、想定以上の待ち行列が各パビリオン前にできていた。簡易なロープなどで仕切っていたが、少しでも隙があれば列の外からでも割り込む人や、前にいる人を勝手に追い抜く人をいたるところで見かけた。しばしば口論にもなっていたが、その種の行為を容認する雰囲気もあった。

秩序だった行列を当然のものとする日本的な価値観から考えると、理解できない振る舞いである。あきらかに文化の違いを実感した。

ただ国際博覧会という場にあっては、さすがに問題になったのだろう。しばらくすると多くのパビリオンの入り口前に、頑丈な格子の金属柵を造作して、物理的に外からの割り込みができないようにした。まるで家畜を追い込むように整列を強要した。

いっぽうで列に並ぶ人たちも、他人に割り込まれないように前の人と密着して、できるだけ隙間をあけないようになった。イベントの運営は臨機応変に課題に対応できるものであり、また人々の生活習慣も状況に応じて変化するものだと、妙に感心したことを覚えている。

大阪・関西万博では、パビリオンによっては敷地内に列を確保しているところもあるが、多くは前面の通路にスペースをとって並ばせている。主催者側で待ち行列を確保する方法や手順について、一定のルールがあるのだろう。

ただパビリオンによっては、すでに想定を越えた行列になっているのではないか。現在は来場者が10万人程度であるにもかかわらず、人気館では入館までに1時間以上も待たなければいけない状況になっている。たとえば予約制度のないアメリカ館などでは、パビリオンの敷地では納まらず、前にある広場にまで長い列が続いている。

今後、入場者が増えることが予測される夏から閉幕に向けて、さらに待ち行列は長くなるのだろうか。雨天や猛暑のなかでどのように並ぶことが最適なのか、現実的な解決策が求められる。

誰も文句を言わずに行列を綺麗(きれい)に作って、自分の順番が来るのを待つ。私たちにとっては子供の頃から学んできた習慣に過ぎないが、海外からは日本独自の優れた文化であると指摘されることが多い。そこに忍耐力や規律正しさ、公平性を重んじる日本人の国民性が反映されていると考えられるようだ。大阪・関西万博は「並ばない万博」と言いながら、実際は日本独自の「待つ文化」「並ぶ文化」について改めて世界が注目する機会になっている。



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