高騰し続けていたコメの価格は高止まりしているままだ。農林水産省が毎週公表しているスーパーのコメの平均価格は5kgで4220円(5月1日時点)で、16週連続の値上がりを記録した。そんななか、全国各地ではコメが盗まれる被害が続出している。茨城県筑西市では4月だけで6件の被害が確認されており、うち4件は同じ地区で同時期に盗まれた。令和の“コメ騒動”の現場に向かった。
「鍵のダイヤル部分をハンマーのようなもので叩かれて…」
事件の舞台となったのは茨城県筑西市旭ヶ丘。筑西市は県西部に位置し、鬼怒川など一級河川が5本流れている。県内でも有数のコメどころとして有名で、見渡す限り田んぼが広がっている。筑西市で作られるコメの生産量は県内トップクラスだ。
この筑西市で「コメを盗まれた」と肩を落とすのは、市内在住の女性Aさん(70代)。4月16日未明に、玄米と精米されたコメと、合わせて155kg分のコメが「朝起きたらなくなっていた」という。盗まれたコメは家族で食べるために備蓄しており、敷地内の倉庫にある冷蔵庫に保管していた。
「一般の家庭からおコメがね、盗まれることなんて考えたこともなかった。だから冷蔵庫に鍵をかけていませんでした。数十年間、ずっと長い間農家をしてきて、(コメが)あるのが当然だった。盗まれたことに気付いたときは、あぜんとしたというか。ショックで言葉も出なかったです」
被害にあったのは、この70代女性だけではない。近隣住宅で同様の被害がほかに3件起きていた。120kgの盗難被害にあったという男性、Bさん(70代)はこう話す。
「Aさんから『コメを盗まれた』と聞いて、ウチは大丈夫なのかなと冷蔵庫を見たら、あるはずのコメ袋が消えていた。Aさんのところから盗まれて3日後の19日朝に気付いたんだ。鍵はつけていたけど、そこまで高いものではない。鍵のダイヤル部分をハンマーのようなもので叩かれて、こじ開けられていた」
家族や親族に分けるはずのコメが…
盗まれたコメは去年秋に収穫し、今年秋までに家族や親族で分け合って食べる予定だったという。「子どもが2人いてさ、もう家族も持って暮らしているのよ。コメが去年から高くなって、生活の助けになりたいなと思っていたらそれを盗まれたんだ。許せねえよな、本当に」と怒りをあらわにする。
「30年間農家をやっていたけど、もう歳で体力もないから数年前から土地だけを貸して農作物の収穫などは他のかたがしている。老後は無理のない範囲で生きていこうと思ったんだけどね。コメ含め農産物も多く収穫できればいいなと思って、これからは俺より若い人たちが農作物を育ててくれるし、もしかしたら収穫量もあがるかもしれないって、いままで使っていた倉庫も最近大きくしたんだ。
そしたらすぐに、コメを盗まれちったとは。いままで一度もないんだよ、こんなこと。金に余裕もそこまでないから、買うとなったらいくらすんだよって話。
いまさ、どこへいってもスーパーでコメの品切れが続いていて、国もさ、備蓄米を出すとか言っているけど、もう少し早く対応してくれたら俺らも盗まれなかったんじゃないかなと思うよ。コメの業者が狙われているんじゃなく、個人宅が狙われているんだよ。貧しい時代になったもんだね」
今後についての不安も募るばかりだという。
「収穫したばかりで一番多くコメを保管する秋に被害に遭っていたらと考えると、ゾッとするね。防犯カメラなんてもともとないし、センサーのライトとかも用意しければいけないのかな。秋までのコメも買わんといけんし、これからお金がかかることも考えると先が思いやられる」
Bさん宅の隣に住むCさん(60代女性)も90kgのコメを同時期に盗まれていた。保管していた冷蔵庫には鍵をかけていなかったと明かす。
「Aさんの注意喚起を受けて確認をしたら、私も盗まれていました。もういろいろ疲れてしまった。だってお米なんて買いたくないよ。いま高いじゃないですか。でも生活するには買うしかない。
息子家族にあげる予定だったのに、『ごめんね。盗まれたから今年秋までは買って食べてほしい』と謝ることになった。シャッターもね、年明けに鍵が壊れてしまって、そこまで余裕もないし、コメなんて盗まれると思わないから、そのままにしてたんだ」
Cさんの数十メートル先に住む農家では420kgものコメが盗まれた。倉庫のシャッターには鍵をかけていなかったが、冷蔵庫には鍵をかけていた。鍵穴には目立った傷はついておらず、倉庫内に保管していた鍵を見つけ出し冷蔵庫を開けたとみられている。
「ウチ、販売しているわけでもないので、次の収穫までに自分たちで食べたり、親戚に分けたりする用に保管してただけなんです。だからそんなに厳重な管理はしてない。420kgなんて相当な量だし、複数人の犯行なのかな。今回の事件を受けて、親戚にはあきらめてもらい、自分たちは知り合いから少しだけコメを分けてもらった」