「マンションには54台もの防犯カメラが設置されており、住民は24時間行動を監視されている」。渋谷区の最寄り駅から徒歩4分の一等地にある人気のヴィンテージマンションシリーズにもかかわらず、周辺相場の30〜40%でも買い手がつかないマンションがあった。
ついに住民は、30年近く“独裁”を続けた管理組合の理事と対峙し、政権交代を果たす。
栗田シメイ氏の新著『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』より、一部抜粋・再編集のうえ、ネット上で「渋谷の北朝鮮」とも揶揄された実態と、理事との壮絶な戦いをお届けする。(前・後編の前編/後編に続く)
■売買契約を結んだ後の異様な「入居前面談」
“悪評”も一時と高をくくって入居したが……多鹿英和(46)は、最も所有歴が浅い区分所有者だった。2019年6月、秀和幡ヶ谷レジデンスの売買契約を結ぶ。しかし、入居前から衝突が起きる。管理組合からの横槍が入ったのだ。
「入居前面談が必要だ」と、不動産会社から告げられた。仲介した不動産会社からは「外国人やミュージシャンなどを嫌うため素性を調査し、住民の生活を脅やかさないかの事前調査である」と説明を受けたという。
当時、東京23区の東端にある江戸川区小岩の賃貸マンションで暮らしており、結婚を機に幡ヶ谷に移り住む予定だった。賃貸の解約時期もあり、多鹿は早めの引っ越しを望んでいた。ただ、一向に管理組合から「面談」の日時の連絡が来ない。ようやく面談の日程が決まったのは2カ月後のことだった。
面談は2度に分けて行われた。最初の面接は管理人の大山が相手だった。なぜか管理室の窓口越しに話しかけられ、180cm近い多鹿は膝をつくほど体を折り曲げ、かがんだ姿勢で応対した。
「管理人のこの態度はふざけているのか」「そもそもなぜ理事会の面談が必要なのか」
新生活を控えていたこともあり、喉元まで出かかっていた言葉をぐっと呑み込んだ。売主と売買契約を交わすも、理事会から「契約内容を白紙に戻せ」と干渉があった。
■ネット上に書いてあったことは本当だった
2カ月半後、吉野理事長(仮名)との面談を経てようやく理事会からの許可が下りた。その後も事務手続きなどに時間を要し、入金は10月に入ってから。入居したのは、売買契約から4カ月も経ってからだった。度重なるやり取りを受け、多鹿はこう考えていた。「本当にネット上に書いてあった通りだな」