「有休マックス取れると思っちゃ大間違い」社長発言の“違法性”主張し従業員が提訴 裁判所が認めた「慰謝料額」は?


これは社員Aさんが退職願を出した後の面談で、社長たちから投げつけられた言葉である。

Aさんが訴えた結果、裁判所は「有給休暇の取得を否定する発言である」「パワハラ発言だ」「個人的な人格非難だ」と認定して、社長たちと会社に慰謝料10万円の支払いを命じた。(東京地裁 R6.7.25)(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

この会社は、いわゆる家族経営だった。会長Bと副社長Cが夫婦、その三男Dが社長であり、次男Eが元社長である。今回、Aさんにパワハラ発言を行ったのは副社長Cと社長Dだ。

パワハラ発言のほかにも、会社はAさんを降格処分としている。Aさんは降格処分とパワハラ発言についての違法性を主張し提訴に踏み切った。以下、順に解説する。

■ 降格処分
パワハラ発言が行われた背景として降格処分がある。令和4年(2022)8月ころ、会社とAさんとの関係は悪くなっていた。会社は「Aさんが会社のお金を横領したのではないか」と疑い、Aさんは「横領などしていないのに会社が自分を窓際族に追い込もうとしている」と感じていたのである。

同年8月5日、会社はAさんを降格処分として、給与から管理職手当を2万円減額した(課長代理から係長代理への降格)。

裁判所は「降格処分は違法だ」として会社に対して8万円の支払いを命じた。「本件降格処分の適法性を根拠づける証拠は存在しない。さらに、被告会社の就業規則および賃金規程を通覧しても、降格に伴う賃金減額の定めはない」と判断したのである。

■ 面談
降格処分の後、Aさんは退職しようと決意し、退職願を提出したところ、その約2週間後、副社長Cと社長Dが同席した面談が実施された。その場で、両名はAさんに対して以下の発言をした。

■ 副社長Cの発言
「うーん。すごい人だね、あなたね。心の中、のぞいてみたいよね。夜叉(やしゃ)だよ、夜叉。そんなことをね、言う人はね、普通じゃないって」
「この人が聞いたら、夜叉です。あなたはね、そういうことして平気でいることも、普通の人間じゃ考えられない」
「私は悪いと思ってるの、あなたを。普通の神経では考えられない。で、みんなEのせいにするの」
「あなたね、普通の死に方しないですよ、そんなことしてたら」
「私はあなたを、もうほんと、人間だと思えないぐらい、普通の人じゃないと思う。って思ってます」

裁判所は「面談における会話の流れを通覧しても、副社長Cの発言は、Aさんの仕事ぶりについての自己の認識に関する発言の域や、Aさんに反省を求める発言の域を超えており、Aさんに対する個人的な人格非難と評価されてもやむを得ない発言である」と認定。

さらに、副社長Cは以下の「有給休暇否定」発言もしている。

「もうあなたに給料出す気はないし、早く、1日でも早く辞めてほしい。いなくなってほしい」
「有休マックスなんか、取れると思っちゃ、大間違いだからね。言っとくけど。大間違い」

裁判所は「有給休暇の取得を否定する発言である」として、副社長Cの発言は「Aさんに対する違法なパワーハラスメントとして不法行為を構成する」と判断した。

■ 社長Dの発言
「最後に正義が勝つんだなって、僕思ってるし、なぜA君がこういうふうに精神的に追い詰められたかって、今、自分でもずっと考えてて。うん。その理由は、まあ、本人の問題もあるだろうけど、うん、あなたにもあるんじゃないかなと思います」

裁判所は「本件面談を通じて、副社長Cの発言を制することもなく、かえって上記発言をするなど、副社長Cに同調する発言をしていたことからすると、副社長Cとともに共同不法行為責任を負う」と結論付けた。

■ 慰謝料の額
裁判所は、会社に対して10万円の慰謝料支払いを命じた。算定根拠は「Aさんの人格を否定するような内容の発言が本件面談を通じて繰り返されていたことに加え、本件退職願に記載の退職日を待つことなく即時の退職を求める旨の発言や、有給休暇の取得を否定する内容の発言もあった」というものである。

有給休暇の取得を否定したことが慰謝料アップの算定要素となったことはたしかだ。



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